特集/ダルファンディ・チャ・キット・オン:「ソナーレ・チェロと生きる」日本で見つけた理想の働き方♪
マレーシアからの留学生として日本の音大に通い、卒業後の現在は『音TOWN』の運営母体である株式会社ソナーレの正社員として働きながら、プロのチェロ奏者としても活動中のダルファンディ・チャ・キット・オンさん。
「一般企業に就職しつつ音楽活動を続ける生き方・働き方」は、これからのスタンダードの一つになるかもしれません!
「音TOWN」(おんたうん)は、『音楽“と”生きる街』をコンセプトに、(プロアマ問わず)音楽家がより生きやすくなるために、主に音楽以外の有益な情報をお届けしています。
この特集は、音TOWNが目指す「QOL」(クオリティ・オブ・ライフ)「持続性」(サステナブル)「多様性」(ダイバーシティ)を実践している音楽家さん、経営者さん、経営しているお店などをご紹介するコーナー。
これからの時代に合った柔軟な生き方のモデルが見つかるかも!?
この記事を読むと役に立つ人は!?
・一般企業への就職と音楽(演奏)活動の両立を考えている方
・音楽活動と両立出来る企業への就職やアルバイトを探している方
・日本への音楽留学や永住を考えている方
読んだらどんな良い事が!?
・一般企業で生計を立てながら音楽活動を継続する方法がわかる
・音楽活動を継続しながら働ける会社が見つかる
・日本への音楽留学の情報が得られる
※この記事はYouTubeでのロングインタビューを再編したものです。ダルさんの音楽(チェロ)との出合い、マレーシアでの学生生活、武蔵野音大での留学生活などのお話もしていますので、ぜひ動画もご覧ください!(概要欄に目次があります)
藤井:本日は株式会社ソナーレで不動産業務を行いながら、チェロ奏者としても活動している、マレーシア・ペナン島出身のダルファンディ・チャ・キット・オンさん(以下ダルさん)にお話を聞いてみたいと思います。よろしくお願いします!
ダル:よろしくお願いします!
就職後すぐにコロナが直撃!
<インタビューは藤井が経営する江戸川区西葛西の「音ラク空間」にて>
藤井:ダルさんは2011年に来日し、武蔵野音楽大学と大学院を卒業。一度、旅行会社に就職した後、2022年から株式会社ソナーレさんのグループ会社(株式会社ドルフィンパートナーズ)でアルバイトを始めて、翌年ソナーレさんに入社したそうですね。
ダル:はい、そうです。
音大卒業後は帰国せずに日本に住み続けたかったのですが、音楽家としてビザを取得するのは僕にはハードルが高くて…
日本人ならフリーランスになれますけど、外国人だとオーケストラのような所属先がないとビザが下りないんです。
当時住んでいた家は練習が出来なかった事もあって、プロとして専業で活動していくには厳しい状況でした。
そこで、(マレーシア人の)叔母が働いている旅行会社で雇ってもらい、ビザを取得しました。
藤井:なるほど。僕も以前アメリカに留学していて、アーティストビザが取れなくて帰国した経験があるので、大変さはよくわかります。
ところで、その旅行会社ではどんな仕事をしていたんですか?
ダル:マレーシアや台湾などから来る旅行者が泊まるホテルや観光バスの手配を日本側で行う仕事ですね。
働き始めたのが2019年の年末くらいなんですけど、マレーシアでは日本より少し早くから新型コロナの影響が出始めていて、キャンセルが相次ぎました。
その後、日本でも緊急事態宣言が発令されるような事態になって、仕事が全くなくなってしまったんです。
藤井:旅行会社はコロナで最も影響を受けた業種の一つですよね。大変でしたね…
<イメージ>
再就職先はソナーレ!
ダル:会社に在籍はさせてもらっていたものの、給料が出ないので、コンビニでアルバイトをしながら、なんとか生活をしていました。
コロナ収束のメドが立たず、閉業する可能性が高くなってしまい、ビザも切れてしまうので、再就職先を探し始めて、それで辿り着いたのがソナーレです。
藤井:ソナーレさんはどうやって見つけたんですか?
ダル:音大の後輩が「そう言えば、友達がソナーレという音楽家向けの賃貸物件の不動産屋さんでアルバイトしてましたよ」という情報をくれたんです。
最初は「とにかくビザのために、どこでも良いから就職したい」という想いでエントリーしました。
ソナーレグループ採用サイト
http://www.sonare-jinji.net/
藤井:日本語で言う「藁(わら)にもすがる思い」というやつですね。
他の会社にもエントリーはしてみたんですか?
ダル:実はソナーレだけなんです。
僕は音大卒なので、少しでも音楽に関係している職場じゃないと、もしも就職試験に受かったとしてもビザの発給で落とされるかもしれないというのがあって。
条件に合う会社で外国人を受け入れてくれそうなのはソナーレしかありませんでした。
藤井:旅行会社の時は叔母さん、ソナーレさんの時は音大の後輩と、「縁」をうまく引き寄せている印象ですね!
ソナーレでは入社試験を受けたんですか?
ダル:ソナーレには「中途採用の場合は一定期間アルバイトを経験し、その後協議のうえ、正社員として雇用する」という規則があるので、まずは半年アルバイトで働き、その後の半年が採用のための実地試験のような感じで、1年くらいして本採用していただきました。
「国際部」でのお仕事
藤井:良かったですね! ダルさんは「国際部」という部署に所属しているそうですが、具体的にはどんなお仕事をしているんですか?
ダル:入居者さんの中にはたとえば中国や韓国の方とか、僕と同じように外国人で音大に留学している学生さんがいますので、その方たちに何か困り事があった場合は僕が対応しています。
藤井:最近は外国人の方も多いんですね。
ダル:そうですね。月に2,3人は新規のお問い合わせがあります。
アメリカ人やイギリス人など、英語教師として日本に住み、趣味で楽器も演奏されるといった方もいらっしゃいますよ。
藤井:ダルさんのようなマレーシア人のほか、東南アジアから来る人はいますか?
ダル:今のところ東南アジアの入居者さんはいらっしゃらないと思います。
まだまだクラシックやジャズの管弦楽器を演奏する人口が少ないのと、たとえばマレーシアの場合はイギリスの植民地だったので、英語を話せる人が多くて、留学先にも欧米を選ぶケースが多いと思いますね。
藤井:なるほど。日本語は難しいですしね…
ダル:中国の方には「なぜ留学先に欧米でなく日本を選んだんですか?」と聞いた事があるんですけど、「近いから」「安いから」といった答えが返ってきました。
藤井:円が弱くなってますからね…(苦笑)
ダル:あとは、不動産管理会社が集まって運営している「留学生交流クラブ」というプロジェクトがあるんですけど、そこに参加している音大生のサポートをする仕事も行っています。
藤井:ソナーレでの仕事はどんなところにやり甲斐を感じますか?
ダル:入居者さんには音大生ならではの悩みなどもあったりしますよね。
メンテナンスのお問い合わせをいただいた際とかに、本業の不動産以外の相談をされる事もあるんです。
自分も音大卒なので、同じ立場で寄り添える事にやり甲斐を感じますね。
藤井:他国で生活する留学生にとって、ダルさんのように、中国語や英語を話せるスタッフがいてくれるのはありがたいですよね。
ダル:実は相談をしてこられるのは日本人の学生さんやその親御さんのほうが多いんです(笑)。
外国人は「人に頼らず自分で解決する」というタイプが多いような気がしますね。
藤井:やはり外国人そのものだったり、海外で生活しようというモチベーションの人はたくましいですね。
日本の音大生や親御さんも、もう少し自立心や「親離れ・子離れ」が必要な気もします…
音楽と両立出来る環境
藤井:ちなみに現在、チェロ奏者としてはどんな活動をしているんですか?
ダル:今は、これまでお世話になったアマチュアオーケストラのお手伝いに行って演奏するくらいですね。
ソナーレの休みはシフト制・フレックスで、演奏の仕事がある時に休みを入れたりしやすいので、うまく両立出来ています。
藤井:以前は家で練習出来ないとの事でしたけど、最近はどうですか?
ダル:実は、昨年から僕も自社企画物件に住み始めて、家で練習が出来るようになりました。
部屋で音がどう響くかとか、生活のしやすさとかが入居者さん側の立場でもわかるので、仕事にも役立っています。
※実は藤井も(音TOWN運営の)ソナーレさんの物件に住んでいました!
自身の強みを生かした将来設計
藤井:ダルさんが仕事をしていくうえでの「武器」は何だと思いますか?
ダル:やはり、日本語以外の言語も話せる事ですね。
中国語(母国語)はビジネスレベル、英語は日常生活レベルで話す事が出来ます。
外国人でないとわからない文化や習慣もありますので、日本人でない事は逆に強みにもなると思います。
藤井:なるほど! では最後に、ダルさんの今後の展望を教えてもらっても良いでしょうか?
ダル:将来的には永住権を取得して日本に住み続けたいと思っています。
ビザよりもいろいろな制限が緩和されて、音楽の仕事などでも出来る事が増えますので。
日本の文化や習慣が自分に合っていると思っていて、とても居心地が良いですね。
ソナーレ「国際部」のお仕事としては、不動産業の枠を超えて、各音大に留学生や留学生向けの奨学金の制度を紹介するといった、ネットワークを作る、広げる仕事をしたいと思っています。
日本はよく「街が綺麗」といった話が出ますが、街が綺麗なのはどんな背景があるのか。
そういった部分は住んでみないとわからない(旅行ではわからない)面もありますので、ぜひ日本の音大にも、もっと外国人が来てほしいなと思いますね。
藤井:もちろんチェロも続けていくんですよね?
ダル:はい、そのつもりです。
最近、自分の友達でチェロをやっていた日本人なんですけど、IT企業に就職したらしいんです。
そうしたら、楽器は完全にやめてしまったそうで…
日本って「就職したら音楽はやめないといけない」というような先入観・固定概念をもつ人も多い気がしますが、僕は少し違うと思っていて。
「弾いていれば(続けていれば)勝ち」
だと思うので、これからも何らかの形でチェロには関わり続けたいと思っています!
音大生の理想の進路になるかも!?
<イメージ>
藤井:もちろん音大に進学するほとんどの人が「音楽だけで食べていきたい」って考えるんですけど、実際にそれが出来るのはほんの一握りですよね。
・生活の基盤としてきちんとお給料をもらえる(社会保険完備の)会社に就職
・なおかつその会社は残業がない(少ない)、有給休暇が取りやすいといったホワイトな環境
・ソナーレ物件のような練習が出来る家に住んで、仕事から帰ってきて練習、会社が休みの日にコンサートなど、音楽活動をする
まさにダルさんはこんな感じですけど、これってビザが必要な外国人だけじゃなくて、日本人の働き方(音大生の進路)としても理想系の一つじゃないかと感じますね!
ダル:はい、この環境を生かして、今後も日本で頑張っていきたいと思います!
<ダルさんがマレーシアのペナン島でオーケストラの練習に使っていた場所/2024年8月、ダルさん帰省の際、藤井も現地を訪れて撮影してきました!>
ダルファンディ・チャ・キット・オン(Dalfandy Cheah Keat Onn)マレーシア連邦ペナン出身。幼少より音楽の英才教育を受け、13歳よりチェロを始める。
マレーシアフィルハーモニック・ジュニアオーケストラを経て来日し、武蔵野音楽大学音楽学部器楽学科チェロ専攻卒業。卒業時に選抜され卒業演奏会に出演。同大学大学院音楽研究科修士課程修了。修士号を取得。ペナン州立交響楽団、ムジカシンフォニエッタ(マレーシア)を経て、現在ではアンサンブル・コーシュカのチェロ奏者を務めている。
日本においてもチェロ奏者として室内楽を中心に演奏活動を展開しており、いずれも高い評価を受けている。
第82回「東京国際芸術協会新人演奏会オーディション」優秀新人賞。
2022年6月23日「第82回東京国際芸術協会新人演奏会」に出演。2023年9月9日「森の休日〜震災チャリティー公演〜」にて、ハイドンチェロ協奏曲一番をソリストとして出演。いずれも好評を得ている。
チェロをライ・コン・ロク、花崎薫、櫻井慶喜の各氏に、室内楽を島野泰史、二宮更織、深山尚久、小池ちとせ、Z.ティバイ、増田加寿子の各氏に師事。
藤井裕樹/音TOWNプロデューサー
【株式会社マウントフジミュージック代表取締役社長・『音ラク空間』オーナー・ストレッチ整体「リ・カラダ」トレーナー・トロンボーン奏者】 1979年12月9日大阪生まれ。19歳からジャズ・ポップス系のトロンボーン奏者としてプロ活動を開始し、東京ディズニーリゾートのパフォーマーや矢沢永吉氏をはじめとする有名アーティストとも多数共演。ヤマハ音楽教室の講師も務める(2008年〜2015年)。現在は「ココロとカラダの健康」をコンセプトに音楽事業・リラクゼーション事業のプロデュースを行っている。『取得資格:メンタル心理インストラクター®/体幹コーディネーター®』