Vol.3 インボイス制度についてフリーランスの音楽家が知っておくべき事
昨年(2023年)10月から、インボイス制度が日本で導入され、約1年が経過しました。
この制度は今後、フリーランスの音楽家さんにも大きな影響があるかもしれません(すでに起きているかもしれません)。
この記事では、インボイス制度の基本的な内容から、フリーランスの音楽家さんへの影響、そして具体的にどのように対応すべきかについて簡単に解説します♪
「音TOWN」(おんたうん)は、『音楽“と”生きる街』をコンセプトに、(プロアマ問わず)音楽家がより生きやすくなるために、主に音楽以外の有益な情報をお届けしています。
このシリーズでは、音楽を職業にしていくためにとても重要であるにもかかわらず、学校ではあまり教わらない“お金”について、改めて学んでいきましょう!
お金について学ぶと「生き方」も明確になりますよ!
この記事を読むと役に立つ人は!?
・フリーランス(個人事業主)の音楽家・演奏家
・音楽プロデューサーやマネージャーなど、音楽業界の裏方業務の方
・インボイス制度の登録・申請を迷っている方
読んだ後に解消される不安は!?
・インボイス制度の基本的な理解が深まる
・自分の収入に応じた具体的な対応方法がわかる
・登録すべきかどうかの判断が出来るようになる
「前回」の記事は主に「所得税」(確定申告)についてでしたが、今回は「消費税」の話になります。
インボイス制度の概要
インボイス制度とは、売買取引において適正な消費税の申告・納付を確保するために導入される制度で、請求書(インボイス)に取引内容や金額、消費税額などを詳細に記載する事が義務付けられます。
制度の目的と背景
この制度は、消費税の不正な申告や未納を防ぐために導入されました。
従来の制度では、売り手が消費税を適正に申告しない場合があり、その結果、消費税の徴収が不完全で、税収の確保が困難になる事があったからです。
インボイス制度はこれを防ぐために、正確な取引記録を義務付ける事で、消費税の適正な申告と納付を促進する事を目的としています。
ちょっとうがった見方をすると、「所得税」は所得のない・少ない会社(利益が出ていない会社)からは取れない税金で、「消費税」は誰からも平等・公平に取れる税金なので、政府は何がなんでも我々から税金を取りたいという事ですね…
フリーランスの音楽家さんで「赤字申告」の方、それに近い方は、確定申告をすると還付されるくらいですから、「所得税」は0円、もしくはほとんど払っていないのですが、皆さんがスーパーやレストランなどでは10%もしくは8%(軽減税率)の「消費税」を必ず支払っているように、消費税は稼ぎの少ない方からもきっちり徴収出来るわけです。
だからこそ「フリーランス泣かせの制度」と言われ、音楽家さんと同じように収入が不安定なイラストレーターさんや声優さんの業界が大反対していたんですよね…
(音楽家さんがあまり声を上げないのは、「比較的、元々お金持ちの方が多い」もしくは「そもそもどんな制度なのか、よくわかっていない方が多すぎる」からではないかと個人的には考えています)
インボイス制度をわかりやすく図解します♪
登場人物はどちらも「フリーランスの音楽家さん」「アナタに仕事をくれる事務所(仮名:音TOWN音楽事務所)」「税務署」で、事務所はアナタに『報酬20,000円+消費税10%(2,000円)=22,000円』の仕事を発注してくれました。
ここまでは同じですが、AさんのケースとBさんのケース、つまり音楽家さんが「適格請求書(インボイス)の発行事業者」かどうかによって、どちらが税金を納める事になるかが変わってくるという話ですね。
アナタ(音楽家さん)の立場で見たとき、どちらが得だと思いますか?
普通に考えて、Aさんのほうが得ですよね。
これまでは年収(売上)が1,000万円以下の場合、「(収入が少なくてかわいそうだから!?)免税事業者のAさんには消費税分の2,000円もあげるよ(by 国)」みたいな感じだったわけです。
それが昨年10月の制度導入後からは、
「年収が1,000万円以下でも、出来ればBさんになって消費税2,000円は国に納めてね」
「もしもAさんのように申告をしない人に仕事を頼むなら、消費税2,000円は事業者側がAさんの代わりに国に納めてね」
みたいに変わりました。
ですので、音楽家さん側から見ればAさんのほうが得に決まっているのですが、事務所側から見たらBさんにお仕事をお願いしたほうが得だという事情がわかるかと思います。
「何を2,000円くらいでごちゃごちゃ言ってるの?ケチね…」と思うかもしれないですけど、これはあくまで「1件、1人」の話ですからね(100人のオーケストラだったら1回の公演で2,000円 x 100人。これを年間の公演数で考えたら結構な額になるのがご理解いただけると思います)。
アナタが事務所側の立場だったら、Aさん、Bさん、どちらにお仕事をお願いしますか?
現在は制度の「経過措置期間」
実は現在は「経過措置期間」で、
2023年10月1日から2026年9月30日までは「仕入税の80%」
2026年10月1日から2029年9月30日までは「仕入税の50%」
を仕入税額控除の対象に出来ます。
つまり事務所側は、この記事の事例では、それぞれ400円、1,000円の負担で済んでいるという事ですね(2,000円全部を納めなくて良い)。
ですが、2029年10月1日以降は仕入税額控除がなくなります。
現状で起きている事
前述の通り、現在は「経過措置期間」で、「制度が浸透していない」とか、「特に音楽家さんはこういった事に疎いので、いきなり全員がBさんのようになるわけがなく、お願い出来る奏者さんがいなくなってしまう」ため、影響は限定的だと言えると思います。
ですが、ある程度制度が浸透し、インボイスに登録する音楽家さん(Bさん)が増えてきたら、事務所側はBさんにだけ仕事を回すようになる可能性が高いですよね。
年収が1,000万円以下であれば、確かにAさんのほうが得なのですが、今後知らないうちに「呼ばれる仕事が減っていき、結果として年収が下がる」可能性が十分に考えられます。
ですので、僕の周りのミュージシャンでも、大手の事務所からアーティストさんのツアーサポートなどの仕事を請けている方は、年収が1,000万円以下であっても、インボイス制度に登録・申請した方が一定数いらっしゃるようです。
もう一つ起きているのは、「インボイス制度に登録するか、報酬を消費税の10%相当分安くするか、どちらかを選んでください」と、音楽家さん側に選択させる事例。
この記事で言えば「税込で22,000円だった報酬を最初から20,000円(約18,000円+消費税2,000円)」のようにしてしまうという事です。
事務所側は、「どうせこれまでより2,000円多く納税する事になるんだから、それを見越してギャラの単価を下げておこう」みたいな話ですね。
申請する?しない?
というわけで、年収1,000万円以下の音楽家さんの場合、一見申請しないほうが得なんですが、知らないうちに仕事を減らしていってしまう可能性があるし、それを恐れて申請したら、年収の10%分を消費税として確実に納税する事になる。つまり、結果としてやはり年収が減るという、デメリットしかないと言っても過言ではない制度だと言えますよね…
現状でAさんのままでいるか、Bさんになったほうが良いかは下記のような基準になると思います。
申請したほうが良い方
- 年収が1,000万円以上の方
- 大手の事務所や企業・音楽教室などと取引を行っている方
- 将来的に収入が増加し、課税事業者となる可能性がある方
まだ申請しないほうが良い方
- 年収が1,000万円以下で、取引先が中小企業や個人の方
- 現時点でインボイスを求められる事が少ない取引を行っている方
- 登録する事で事務負担が増える事を懸念する方
年収が1,000万円以上の方はどちらにしても「課税事業者」なので、早く申請したほうが良いと思います。
ちなみに、うちの会社がそうなのですが、「簡易課税制度」を選択したほうが節税になったり、普段の事務作業が楽になったりするので、関係のある方は調べてみてください(税理士さんにアドバイスをもらったほうが良いかもしれません)。
例えばうちのように「簡易課税制度」を選択している場合、音楽教室の講師さんたちが免税事業者でも課税事業者でも納税額が変わらないので、売り上げが1,000万円から5,000万円くらいの会社との取引しかない音楽家さんも、焦って申請する必要はないと思います。
また、「個人でピアノを教えている」というような方は、取引先が事務所、事業者ではなく、個人のお客様なので、やはり焦って申請をする必要はありません。
前述の僕の周りのミュージシャンのように、大手の事務所から定期的に仕事をもらっていて、それが収入の柱になっているような方は、おそらく申請したほうが良いと思われます(アナタが超レア・優秀で、事務所側が「多少経費が増えてもアナタを使いたい」と思ってくれている場合は例外かも!?)。
請求書を正しく書けるように!
インボイス発行事業者(課税事業者)になった場合、「Tから始まる登録番号」や「税額を記載した請求書」のやり取りがマストになります。
僕の周りの音楽家さんでも、請求書を書いた事がない方、書き方がわからない方が非常に多いのですが、音楽業界以外の一般企業や、音楽業界でも大手の取引先や企業の経理、事務では「請求書が書けるのは当たり前」なので、この制度の導入で損をしたくない方は必ず正確に書けるようになっておいたほうが良いと思います。
会計ソフトを活用する事によって請求書の発行だけでなく、日々の領収書の管理、確定申告などもスムーズになりますので、特にある程度収入がある方や、事務作業を軽減して音楽に集中したい方は、導入を検討してみても良いのではないでしょうか。
ちなみに「インボイス制度」「請求書の書き方」については以前うちの会社のブログでも取り上げていますので、良かったら参考にしてみてください。
インボイス制度への適切な対応は、フリーランスの音楽家(個人“事業主”)としての業務運営をスムーズにし、取引先との信頼関係を強化するために重要です。
制度の内容を理解し、適切な準備を行いましょう!
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藤井裕樹/音TOWNプロデューサー
【株式会社マウントフジミュージック代表取締役社長・『音ラク空間』オーナー・ストレッチ整体「リ・カラダ」トレーナー・トロンボーン奏者】 1979年12月9日大阪生まれ。19歳からジャズ・ポップス系のトロンボーン奏者としてプロ活動を開始し、東京ディズニーリゾートのパフォーマーや矢沢永吉氏をはじめとする有名アーティストとも多数共演。ヤマハ音楽教室の講師も務める(2008年〜2015年)。現在は「ココロとカラダの健康」をコンセプトに音楽事業・リラクゼーション事業のプロデュースを行っている。『取得資格:メンタル心理インストラクター®/体幹コーディネーター®』