特集/青木耕一弁護士:音楽家なら必ず知っておきたい著作権の話
昨今ではYouTubeなどの普及によって誰でも簡単に動画投稿や生配信が出来るようになり、アマチュアからプロまで多くの音楽家・ミュージシャンにも利用されています。
上手に利用すれば低コストで広告宣伝が出来たり、場合によって収益にもつながるツールですが、アナタの動画や、コンサートのために自分で編曲した作品の著作権は大丈夫でしょうか??
そこで今回は、「どんな動画が著作権に関わる?」「私的利用の範囲って?」など、ネット上での音楽に関する動画を投稿・配信・視聴する際に気をつけたい基本的な疑問について、弁護士法人 青木耕一法律事務所の所長・青木耕一弁護士に解説していただきました。
「音TOWN」(おんたうん)は、『音楽“と”生きる街』をコンセプトに、(プロアマ問わず)音楽家がより生きやすくなるために、主に音楽以外の有益な情報をお届けしています。
この特集は、音楽業界を陰で支える企業の経営者さんや、各分野のエキスパートをご紹介するコーナー。
経営理念やノウハウ、専門知識から、何かしらの“学び”や“ご縁”が生まれれば幸いです!
この記事を読むと役に立つ人は!?
・動画配信や編曲活動を行っている音楽家・ミュージシャンの方
・著作権について正しく理解したい方
・配信や編曲でも収益を上げていきたい方
読んだらどんな良い事が!?
・違法でないかを理解し、安心して配信や編曲のお仕事が出来る
・著作権者へのリスペクトが生まれる
・法律の理解の大切さがわかる
ネット上に動画を公開する前に――著作権について確認すべき点は?
藤井:既存の楽曲を使用した動画を公開する際、著作権はどのように関わってくるのでしょうか?
青木:まず基本として著作権法では、私的利用の範囲であれば、著作権者などに許諾を得る事なく利用出来るよう幅広く認めています。
たとえば、「好きなギタリストの演奏をコピーする」というのは当然出来ますが、「その様子を動画で見てほしい」という事も、私的利用の範囲として認められるでしょう。
ですから、ネット上での動画投稿でも、私的利用であれば特に問題はありません。
しかし、その動画から広告収入や投げ銭などで収益を得ている場合には、私的利用の範囲とは言えなくなり、著作権法による制約がかかる事になります。
また、法人および個人事業主としての発信の場合は、事業として収益を得ていると見なされる場合がありますので、より慎重な対応をされたほうがいいでしょう(配信そのものから収入を得ていなくても、動画自体が事業で収益を得るための手段と見なされる場合がある)。
ネット上で既存の楽曲を使用した動画を公開する際、著作権に関して確認していただきたいのは、まずは「私的利用の範囲かどうか」。
そして、この判断の基準は、基本的には「収益が発生するかどうか」になります。
そして収益が発生する場合には、著作権者の許諾がなければいけない。
これだけは、しっかりと押さえておかなければいけないところです。
ただ、YouTubeなどを見ていても、アーティスト(や事務所)によって楽曲を無断使用された際にはすぐに削除申請をする人もいれば、ほかの人にカバーやアレンジをされた事を喜んでいる人もいるでしょう。
ですから、実際にはアーティスト自身の考え方や、音楽ジャンルの慣習などによっても、著作権に関するシビアさにはばらつきがあると言えます。
藤井:「著作権は親告罪」と聞きますが、権利者側がアクションを起こさない限り、使用料や損害賠償の請求や、著作権法に反した事への刑罰は発生しないのでしょうか?
青木:前提として著作権法は、一定の要件が満たされた場合に、必ず権利者側から請求しなければいけない、という作りになっています。
ですので、著作権者、もしくは JASRACなどの信託著作権者や、管理者にあたる人物・法人から請求するというのが原則です。
こういった面もあり、著作権に関しては「黙っていればいいや」「バレなければ大丈夫」という考えになりやすいのですが、収益を得ている場合の無断使用は違法だという事は、よくよく理解しておかないといけません。
藤井:私的利用の範囲を超える場合に、著作権法に反しないためにはどうしたらいいのでしょうか?
青木:YouTubeに代表される多くの動画共有サービスでは、JASRACとの包括利用許諾契約を結んでいるため、カバーなどで自身が演奏する動画の投稿であれば、JASRACの管理楽曲については個別の申請は必要ありません。
これに該当するサービス一覧は、JASRACのホームページ内で公開されています。
また、JASRACの管理楽曲については、動画共有サービスで動画を配信する場合、どのような許諾申請が必要・不要なのか、これもJASRACのホームページ内にてチャート形式でわかりやすく紹介されています。
このような例に該当しない場合は、まずは著作権者に直接、もしくはJASRACなどの管理者を通じて連絡を取るなどしたほうがいいでしょう。
特に収益が予想されるものは、著作権者から事前の同意を得るというのが原則だと思います。
もしも突然バズってしまい、あとから予期せずに収益が入ってきてしまった場合にも、「すみません、今こういった状況です」と報告する形で、すぐに連絡を取るべきでしょう。
藤井:他人の楽曲を自作だと偽る行為はもちろんいけませんが、著作権の観点から、他人の楽曲を利用した際に、クレジットを明示する必要性はあるのでしょうか?
青木:他人の楽曲を自作にみせる、いわゆる「パクり行為」は完全に著作権侵害となります。
そういった誤解を招かないためにも、誰の著作物なのかがわかる形で明示するほうがベターではありますね。
しかし、あくまで「そのほうが無難である」という事で、しっかりと権利者から使用許諾を得ている、または私的利用の範囲であれば、原則的には明示する必要はありません。
ただ、クレジットを明示するというのは、作者へのリスペクトを示す行為でもあります。
たとえば「著作権侵害だ」と言われるような問題が起き、それが訴訟などに発展する過程の中では、こういったリスペクトがされていたかを見られる事はよくあります。
そして、そういった行為が見られないと「相手に敬意を払わない人間だから、著作権侵害も当たり前のようにやっているんだ」と論われてしまい、実際の行為以上に風当たりが強くなる事もあり得えます。
ですので、クレジットの明示はリスペクトを示す意味でも行ったほうがいいと思いますね。
ただ、著作権に論点を置くのであれば、それは著作権法で定められているわけではないというのも理解していただきたいです。
「ライブ配信」と「アーカイブ動画」、「日本の曲」と「外国の曲」などの違いは?
藤井:ライブ配信とアーカイブ動画では、著作権の扱いや、注意すべき事に違いはあるのでしょうか?
青木:どちらも著作権の扱い自体は変わりません。
ただ私的利用ではなく、収益が発生する場合には、著作権者の許諾が必要になりますので、「ライブ配信のみ使用可」などの条件の違いは、その際に著作権者と交わした許諾の内容しだいとなります。
藤井:日本国内の楽曲と海外の楽曲では、著作権の扱いはどのように変わりますか?
青木:権利者の国の法制度や、管理者の規約によります。
国によって著作権の法律も違いますから、それに反した場合には、日本での基準以上の損害賠償を請求されたり、厳罰を受ける事もあり得る話です。
海外の相手に対して許諾を得る事は大変だとは思いますが、そこはしかるべき方法でアプローチをしていくしかないでしょう。
楽曲編曲・アレンジで気をつけたい事
藤井:動画配信に限らず、イベントやコンサートのためにオリジナルで編曲、アレンジを行う(または依頼する)シチュエーションはかなり多いと思うのですが、著作権の観点から問題はないのでしょうか?
青木:楽曲に関する著作権の中には、その曲をどのようにアレンジするか、という「編曲権」というものがあり、これは当然、原曲の著作権者がもっている権利です。
その許諾を得ずに勝手に編曲するというのは著作権法違反にはなってきますが、これも私的利用の範囲であれば問題はありません。
藤井:他人の動画の加工や、ほかの動画とつなげて再編集して公開するなどの行為は認められているのでしょうか?
青木:たとえば「Aさんの動画とBさんの動画を切り抜いて、比較してみよう」というような動画は、動画共有サービスのひとつの楽しみ方として面白いとも思いますし、これも収益を得なければ私的利用の範囲ではあると思います。
しかし、他人が映っている動画を使用する場合には、著作権とはまた別に、肖像権の問題が発生し得るかもしれません。
藤井:ネット上に公開されている動画について、動画を保存したり、上映会のような形で人に見せる行為は、著作権の面では許さているのでしょうか?
青木:これもまた、私的利用の範囲であれば問題はありません。
ただ、飲食店などの店内でBGM代わりにYouTubeの映像を流したり、不特定多数に向けて公開するようなイベントなどは、明らかに私的利用の範囲を超えていますので、著作権法違反です。
藤井:本来は著作権法違反となる行為であっても、権利者側も見て見ぬふりをしていたり、すべてを管理しきれていない面があり、違反行為だと認識されていないケースもあるように思いますね。
青木:そういった面があるのは事実です。
しかし、「これは違法だ」という事にはしっかりと意思表示をしないと、音楽家たちの社会的な立ち位置が守られていきません。
「あなたたちは音楽が好きだから、演奏しているだけでしょ」と言われないためにも、音楽家たちが「これは自分が権利をもっている財産だ」と気づくように、業界全体で啓蒙していかないといけないと思います。
藤井:自身の著作物について、JASRACなどの管理者に委託していない場合は、「この楽曲は一切の利用禁止」、「演奏などに使用したい場合は要連絡」など、自身の基本的なスタンスを示す事も、自分の著作物を守るために効果はあるのでしょうか?
青木:そうですね。利用されたくない場合も、広く利用して知ってもらいたいという場合にも、自分はこの楽曲についてどのような意思であるのか、積極的に出していくべきだという事は頭の片隅に置いておくべきですね。
時代に沿って変わる著作権
藤井:ネット上などでの新たなメディアの実態に、著作権法の内容は追いついているのでしょうか?
青木:技術の進歩や新しい発明に対して、やはり法律というものは後追いですね。
法律は、「今のままだとこんな問題が起こるから、ここは変えていこう」というように後追いしていくものであって、法律を時代の先駆けにしよう、というものではありません。
さまざまな分野の技術が発展し、それに伴って弊害や問題が発生した時に立法化され、立法化された内容では曖昧な部分に対しては裁判という形で判例が積み重なり、その判例に基づいてまた判断されていくものですから、新しく出来た問題に対しては、法律がすぐさま実態に沿った形で適用されている、とは言えない面があります。
しかし、ある日突然ガラリと変わるものではありませんが、時代に沿って判例なども少しずつ変化しています。
藤井:著作権に関する対応について、近年では具体的にはどんな変化が挙げられますか?
青木:特に挙げるとしたら、違法ダウンロードに関しての処罰ですね。
今までは適法・違法にかかわらず、私的利用の範囲であれば問題ないのでは、というような判断だったものが、「違法であると知って利用する」などの悪意性が認められれば、使用制限や損害賠償が課されるようになりましたし、刑事罰というものも当然考えられるようになりました。
これはマンガが違法に公開されていたサイト「漫画村」の問題がきっかけでしたが、著作権侵害について刑事罰が認定されるようになった、というのは大きな変わり目だと思いました。
著作権者に対するリスペクトというものが、社会的に高まっているというのも間違いないでしょう。
私が大学を卒業した1997・8年ころは、まだ著作権法の判例は数が少なく、非常に心細くマイナーな法分野だったんですよ。
それが1990年代後半から2000年代、そして今にかけて一気に判例も積み重なってきて、今では相当なものになっていると思います。
つまり、それだけ著作権の問題をとらえて、自分の権利性を主張する人達が増えてきたという事でもあり、プロ・アマを問わず、「自分の著作物はどのように使うべきか、使われるべきか、決定出来るのは自分だ」という自己決定権を守りたいと思うようになってきたのでしょう。
藤井:著作権に関する判断はケースバイケースという点もあり、多くの人にとって日々関わる法律でありながら、はっきりとした基準が知られていない事も問題に感じますね。
青木:それは間違いなくそうですね。ここ20年間でしだいに著作権侵害というものが問題視されるようになり、著作権法というもの自体の立ち位置が以前よりももっと大切になってきていますし、それについて正しく学んでいく事は必要になってくると思います。
それに、著作権法については、その内容を知らないだけではなく、過剰な思い込みをされている場合も多々みられます。
基本的に守られる対象というのは、創作性がある著作物であって、その背景にある作者の想いや感情などは、原則的には守られないものです。
絵でも音楽でも、形になった作品について発生するものであるという点も理解しなければいけないところですね。
まずはJASRACのホームページを!
藤井:では著作権について、「まずはここから知るべき」と、参考に出来るようなものはありますか?
JASRACのホームページには、著作権が関わると何が出来る・何が出来ないという事が比較的明確に書いてありますから、音楽家の方は一度目を通してみたほうがいいでしょう。
ただ、皆さんが細かく考える前に気をつけるべき事は、まずは「お金が発生するかどうか」です。
「事業としてやるのか」
「自分は利益を得てしまうか」
この2点に注意し、あとはどういった形で相手に対するリスペクトを示していくかという点を考えていれば、著作権の面では大きなトラブルにはならないかと思います。
ただ、迷うところがあれば、早めに専門家に連絡や相談をしてください。
著作権を侵してしまった事が、音楽人生の中での大きな落とし穴になる可能性もありますから、しっかりと気をつけていただきたいなと思います。
もともと著作権法とは、作った人のオリジナリティを尊重しつつ、周りにいる人たちにもなるべく自由を与えるような形で、活発な創作活動とその利用を促すためにはどうバランスを取っていくべきか、という事を考えながら作られている法律です。
音楽をやっている人たちの環境をより良くしていくためにも、権利者も利用者も著作権についての意識をしっかりともち、法律に則ってほしいなと思います。
弁護士法人 青木耕一法律事務所 公式サイト
http://aoki-lo.com/
藤井裕樹/音TOWNプロデューサー
【株式会社マウントフジミュージック代表取締役社長・『音ラク空間』オーナー・ストレッチ整体「リ・カラダ」トレーナー・トロンボーン奏者】 1979年12月9日大阪生まれ。19歳からジャズ・ポップス系のトロンボーン奏者としてプロ活動を開始し、東京ディズニーリゾートのパフォーマーや矢沢永吉氏をはじめとする有名アーティストとも多数共演。ヤマハ音楽教室の講師も務める(2008年〜2015年)。現在は「ココロとカラダの健康」をコンセプトに音楽事業・リラクゼーション事業のプロデュースを行っている。『取得資格:メンタル心理インストラクター®/体幹コーディネーター®』