フリーランス音楽家が知っておいてほしい「確定申告支払調書」の話/Vol.6

この時期になると、昨年お仕事をいただいた事務所や教室などから「支払調書」が送られてくる方も多いと思います。

実は「支払調書の発送」は事業者(音楽事務所や会社)側の義務ではない事、ご存知でしたか!?

また、音楽家さんたちのほうも、確定申告の際に調書を税務署に提出する義務はないんです!

この点を知らないと、慌てたり、場合によっては取引先とトラブルになり、気付かないうちに仕事を減らしてしまいかねないので、ぜひ知っておいてくださいね♪

『音TOWN』(おんたうん)は、『音楽“と”生きる街』をコンセプトに、(プロアマ問わず)音楽家がより生きやすくなるために、主に音楽以外の有益な情報をお届けしています。

このシリーズでは、音楽を職業にしていくためにとても重要であるにもかかわらず、学校ではあまり教わらない“お金”について、改めて学んでいきましょう!

お金について学ぶと「生き方」も明確になりますよ!

この記事を読むと役に立つ人は!?

・フリーランス・個人事業主の音楽家(演奏家)として活動している方
・初めて確定申告を行う方
・毎年確定申告を行っているが、実は仕組みをよく分かっていない方

読んだ後に解消される不安は!?

・確定申告の基本が理解出来る
・支払調書がどういうものなのか分かる
・取引先との関係が良好になり、自身のランクを上げていく事が出来る

確定申告の超基本と意義

この内容については、「音TOWN.Biz」のVol.2で分かりやすくお伝えしていますので、確定申告が初めての方はまずこちらをご覧ください♪


フリーランス音楽家に必要な「確定申告」の基本と「節税」ポイント/Vol.2

そもそも源泉徴収って何!?

本題の「支払調書」の件に入る前に、「源泉徴収」について簡単におさらいしておきましょう!

「源泉徴収」とは、フリーランスの音楽家さんが本来納めるべき所得税や復興特別所得税を、音楽事務所や音楽教室の事業者さんが、「報酬」から先に差し引いて(預かって)税務署に納めてくれている制度なんですね。

サラリーマンが会社からもらっているお金は「給与」フリーランスが取引先からもらっているお金、俗に言う「ギャラ」は「報酬」という区分になります。

サラリーマンの場合は「給与」から差し引かれ、勤め先が代わりに納税し、多く納めていた場合は「年末調整」で還付されます(還付まで会社がやってくれます)。

フリーランスの場合、事業者(音楽事務所や会社)さんがアナタの代わりに先に納税してくれるのはありがたいのですが、収入や所得が人によってバラバラなのに、現在では10.21%(所得税10%+復興特別所得税0.21%)という「定額」を納税しているため、昨年一年分の収入、所得を、通常翌年2月16日から3月15日の間に「確定」させ、「申告」し、先に事業者さんが納税してくれていた税額が多すぎた場合は「還付」され、少なかったら追加で納税となるわけですね。

※開始日や締切日が土日や祝日にあたる場合は、その翌営業日が締切日になります。
(令和7年は2月17日(月)から3月17日(月)まで)

『音TOWN』の読者の多くは、「還付」されるケースが多いのではないでしょうか。

還付金で楽器が買える人もいるし、ご褒美に、いつもよりちょっと高級なお店で食事やお酒を楽しめるかもしれません!(笑)

また、住民税は確定した所得によって算出されるので、確定申告をしないと、所得税が還付されないうえに住民税まで多く納める事になってしまいます

繰り返しになりますが、フリーランスはサラリーマンと違い、自分で申告しないといけなくて、収入、所得の少ない方は確定申告をしないと損をします

税務署や自治体は、「◯◯さん、アナタは所得が少ないから還付対象ですよ!」とは教えてくれません!

お金持ちの方は国や地方自治体に寄付したと思えば良いかもしれませんが、そうでない方は「取られ損」になってしまいますよね…

※一定の収入、所得がある場合、確定申告は義務なので、やらなくて良いわけではないです。

支払調書とは!?

今回の本題まで来ました!

キャリアの長い方はもちろんですが、たとえば大学を卒業しフリーランス(個人事業主)となり、大手の音楽教室で働き始めた方、テーマパークのバンドに入った方、タレントさんのツアーサポート、ミュージカルなどのお仕事があった方など、比較的大きい仕事をされた方は、「支払調書」はおなじみと言えるかもしれません。

この時期になると、続々と送られてきますよね。

上記のサンプル画像は「株式会社マウントフジミュージック」という会社が、トロンボーン奏者「藤井裕樹」さんのために調書を発行した設定になっています(自作自演です…笑)

「支払金額」が本来のギャラ(報酬)である「150,000円」(税込)。

税抜にすると「136,363円」となり、その10.21%である「13,922円」が源泉徴収され、「源泉徴収税額」の欄に記載されています。

つまり、「15万円のお仕事を藤井さんに依頼し、株式会社マウントフジミュージックが13,922円の所得税を先に納めておきましたよというお知らせ、証明」だという事ですね。

ちなみに、案件後のギャラの支払いでは「150,000円 – 13,922円」で 「136,078円」が藤井さんの銀行に入金されていたはずです。

お仕事を始めたばかりの方は、「事前に提示された金額より入金されている額が少なくて、しかもえらい中途半端な金額だな?」と思われたかもしれませんが、理由はここに記した通りです。

年収の少ない方は、この「13,922円を還付金として取り戻せますよ」というのが確定申告。

やらなきゃ損です!(繰り返しますが、一定の収入、所得がある方は義務です/本来は「やらなきゃ損」だからやるのではありません)

支払調書の発送は義務ではない!?


冒頭でもお伝えしたお話。

ここからがさらに大事です!

先述したような、大手の音楽教室、テーマパーク、タレントさんのツアーサポート、ミュージカルといった、比較的大きい事業者(会社)さんや事務所さんからお仕事をいただいている場合、大抵この時期になると、先方からアナタ宛に「支払調書」が送られてくるのではないでしょうか。

ですが、本来「支払調書」というのは、「事業者(音楽事務所や会社)側が一年間に、誰にいくら支払い、どれだけ源泉徴収をしたか」を税務署に報告、提出する書類であって、支払った相手に対して送らないといけない書類ではないんです!

※事業者側が税務署に提出するのは「義務」

つまり、株式会社マウントフジミュージックさんは、支払い調書を藤井さんに送らなくても良いんですね。

※事業者(音楽事務所や会社)がフリーランスの音楽家さんに送るのは「義務ではない」

では、なぜ大手さんがアナタに送ってくれているかと言うと、理由はいくつか考えられますが、

・慣習だから

・厚意(サービス)

・大手さんは経理専門のスタッフもいるし、フリーランス(個人事業主)の音楽家さんや講師さんが個々に連絡をしてきて、その都度発行していたらかえって面倒だから

じゃないかと僕は思います。

ですので、特に小規模な事業者さんや、年間に1回しか仕事をしていなくてギャラも税額も少ない事業者さんから「支払調書」が送られてこないのは、事業者さんがサボっているわけでも、忘れているわけでもないんですよね…(大手さんからは頼まないでも送られてくるので、勘違いしがちなんですよね)


昨年まで音楽ディレクターを務めていた若い音楽家サポートのNPO法人で、フリーランスの若い音楽家さんに演奏の機会を提供する音楽事務所的な事業を行っていたのですが、この時期になって

「おたくの事務所からは支払調書が送られてこないんですけど、どうなってるんですか??」

と、キレ気味に電話をしてくる若手がいました…

こういう事をやるとどうなるか分かりますよね?

「税制について把握、理解もなく、お仕事をいただいている事務所さんへの感謝も敬意もない音楽家です」

と、自分から申告しているようなものです。

こういう方には二度とお仕事を依頼する事はありません

おそらくもう業界からは消えている(どこからもお声がかからなくなっている)のではないでしょうか。

ちなみにこの方はある意味「確定申告をしようとしているだけマシ」で、多くの若い音楽家は「支払調書」についての問い合わせもありませんでした。

もちろん、自分で源泉徴収されている税額を把握している方は問題ないのですが、おそらくはただ単に「確定申告そのものをしていない」「支払調書が届いた分しか確定申告していない」かのどちらかだと思います。

どうしても「支払調書」を発行してほしい場合は、謙虚な態度で、

「昨年はお世話になりました。大変お手数ですが、◯月◯日にいただいたお仕事分の支払調書を発行していただけますでしょうか」

というような連絡をすれば、特に問題なく発行していただけると思います(うちはそうしています)。

支払調書は確定申告時の提出義務はない!?

復習ですが、「支払調書」というのは、「事業者(音楽事務所や会社)側が一年間に、誰にいくら支払い、どれだけ源泉徴収をしたか」を税務署に報告、提出する書類であって、支払った相手に対して送らないといけない書類ではないとお伝えしましたね。

つまり、「事業者(音楽事務所や会社)と税務署間でやり取りされる書類」なので、フリーランスの音楽家さんが確定申告をする際には、税務署に提出する義務はないんです!

ですので、「事業者(音楽事務所や会社)さんからいくらのギャラ(報酬)をもらって、いくら源泉徴収されているかを把握さえしていれば、確定申告書にはそれを記載すれば良いだけ」という事になりますよね。

「じゃあ、把握するためにはどうしたら良いの?」って話ですが、事業者(音楽事務所や会社)さんから「支払明細」のようなものをもらっていれば、そこに書いてありますし、請求書を提出しているのであれば、そもそも自分で記載をして把握をしている事になります(一年で同じ事業者さんから複数回お仕事をいただいている場合、合算する必要はあります)。

※ちなみに「インボイス制度」の導入によって、請求書には消費税額の記載が義務付けられました。その請求書にしっかり「源泉徴収税額」を記載しておく事をオススメします。


フリーランス音楽家が理解しておきたい「インボイス制度」について/Vol.3

税の知識やお金の管理も仕事の一部!


大前提として、「本来、フリーランス(個人事業主)は、事業者(音楽事務所や会社)さんなどからお仕事をいただいた際、自分のギャラがいくらで、いくら源泉徴収されているのか、自分自身で把握、管理しておく必要がある」という事!

このような部分が出来ていないと、先方に足元を見られやすく、ギャラを安く設定されたりする可能性もあり、自分の年収やランクを上げていけない側のフリーランス、個人事業主になってしまうと言えるのではないでしょうか。

還付金、(所得税や住民税の)節税の観点だけでなく、そもそも「ギャラが安いまま」という観点からも損をする事になってしまいますよね。

ぜひ『音TOWN』で、基本的な税やお金の知識を身に付け、損をする事なく、アナタのランクを上げていっていただきたいと思っています♪


音TOWNプロデューサー/株式会社マウントフジミュージック代表
3級ファイナンシャル・プランニング技能士/トロンボーン奏者、『藤井裕樹』による
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音大生のための“働き方”のエチュード/著:藤井裕樹
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藤井裕樹

藤井裕樹/音TOWNプロデューサー

【株式会社マウントフジミュージック代表取締役社長・『音ラク空間』オーナー・ストレッチ整体「リ・カラダ」トレーナー・トロンボーン奏者】 1979年12月9日大阪生まれ。19歳からジャズ・ポップス系のトロンボーン奏者としてプロ活動を開始し、東京ディズニーリゾートのパフォーマーや矢沢永吉氏をはじめとする有名アーティストとも多数共演。2004年〜2005年、ネバダ州立大学ラスベガス校に留学。帰国後、ヤマハ音楽教室の講師も務める(2008年〜2015年)。現在は「ココロとカラダの健康」をコンセプトに音楽事業・リラクゼーション事業のプロデュースを行っている。『取得資格:3級ファイナンシャル・プランニング技能士/音楽療法カウンセラー/メンタル心理インストラクター®/安眠インストラクター/体幹コーディネーター®/ゆがみ矯正インストラクター/筋トレインストラクター』