フリーランス音楽家のための分かりやすい「請求書」の書き方【後編】/Vol.12
【前編】は「請求書とは何か」「なぜ請求書を書けるようになったほうが良いか」について解説しました。
今回の【後編】では、「音楽家さんも知っておいたほうが良い税の種類」と「具体的な請求書の書き方」(源泉所得税の計算の仕方 etc.)をお伝えしますね♪
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『音TOWN』(おんたうん)は、『音楽“と”生きる街』をコンセプトに、(プロアマ問わず)音楽家がより生きやすくなるために、主に音楽以外の有益な情報をお届けしています。
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このシリーズでは、音楽を職業にしていくためにとても重要であるにもかかわらず、学校ではあまり教わらない“お金”について、改めて学んでいきましょう!
お金について学ぶと「生き方」も明確になりますよ!
この記事を読むと役に立つ人は!?
・フリーランス・個人事業主の音楽家(演奏家)として活動している方
・実は「請求書」の書き方がよく分かっていない方
・税金やインボイス制度についてきちんと理解しておきたい方
読んだらどんな良い事が!?
・「請求書」を書ける事の重要性(本当の目的)が分かる
・税金やインボイス制度の仕組みが分かる
・結果、音楽以外の「ビジネススキル」が向上する
ミュージシャンが知っておくべき最低限の税の知識
具体的な「請求書の書き方」の説明の前に、音楽家さん、ミュージシャンでも最低これだけは知っておいたほうが良いと思う「3つの税の知識」について解説します。
1. 消費税
現在、日本で生活をしていて「消費税」を知らない方はいらっしゃらないと思いますが(あなたもほぼ毎日納めているはずです)、導入されたのは今から36年前(1989年)なので、僕が10歳くらいまでは無かったんですよね…
ちなみに当時は3%で、その後、1997年に5%、2014年に8%、2019年に10%に上がり、「軽減税率(8%)」もこのタイミングで導入されました。
「軽減税率」の対象になるのは主に「酒類・外食を除く食品や飲み物」(いわゆる生活必需品の中の食べ物・飲み物関係)です。
スーパーやコンビニでおにぎりやペットボトルのお茶を買ったら8%、缶ビールや生活雑貨を買ったら10%(「お酒」は飲み物ですが、生活必需品ではないため/生活必需品だという方もいらっしゃるとは思いますが…笑)。
同じハンバーガーでも、店内で食べると「外食」なので10%、「テイクアウト」すると8%なので、ちょっとややこしいですね。
ここでのポイントは「音楽(演奏)は生活必需品ではないので、ギャラ(演奏料)にかかる消費税は10%(軽減されない)」という点。
これだけ覚えておけば大丈夫です!
2. 内税・外税
「内税・外税」という言葉は、もしかしたら聞き慣れない方もいらっしゃるかもしれません。
ざっくり説明すると、
内税は「税込価格」、外税は「税抜価格」です(どちらも「消費税」の話)。
例:「ギャラが1万円の場合」
内税(税込)→10,000円(「免税事業者」でない場合、実際のギャラは9,091円+909円は消費税)
外税(税抜)→11,000円(「免税事業者」でない場合、額面通りの10,000円がギャラ+1,000円は消費税)
例えばあなたが「1万円でお願いします」というお仕事を請けた場合、内税か外税かで実質1,000円くらいギャラの金額が違う事になりますね(当然、2万円のお仕事だったら2,000円くらい違ってきます)。
特に「インボイスの発行事業者」になった方(免税事業者でなくなった方)は、今後、消費税10%分を納税しないといけない(免税されない)ので、年間を通して計算すると、手元に残るお金が大幅に変わってきます。
あなたが、事務所や先輩・友人から「ギャラは1万円でお願いします」と打診された際に、「内税ですか?外税ですか?」を聞き返さずに請けてしまうと、事務所の場合「あ、この人は税の知識がないから内税でいいや」と思われ、実質ギャラを下げられてしまう可能性があります。
そもそも、本来は「お仕事を依頼する側が「内税」か「外税」かを事前に伝えるべき(or 伝えないなら「外税」)」だと思うのですが、先述の通り、音楽・エンタメ業界は「口約束」が横行していて、この辺りのルールが非常にいい加減だと思います。
(個人的には「事務所側・音楽家側、どちらにも問題があり、結果、状況が改善されない」と考えています/フリーランス・音楽家側に知識がないので搾取されやすい)
先輩や友人(同業者)の場合、多くの音楽家同様に「その方自身も内税・外税がよく分かっていない可能性」がありますので、その場合はあなたが教えてあげてください(笑)。
※この「音TOWN.Biz」を教えてあげてください!
ちなみに、「内税がダメ」「外税が良い」というわけではなく、「ギャラの金額が適正かどうか」の問題なので、勘違いしないように!(例:1曲演奏するだけで拘束時間は30分程度。ギャラは内税・税込で5万円だったら結構良い仕事ですよね!)
3. 源泉所得税(源泉徴収税)
「源泉所得税」(源泉徴収税)とは、フリーランスの場合、「報酬(ギャラ)からあらかじめ引かれる税金」の事。
演奏や講師の仕事をしてお金を受け取る時、クライアント(音楽事務所・音楽教室 etc.)が一律10.21%天引きして、あなたの代わりに税務署に納めてくれています。
「確定申告」をして「還付金」がもらえる方は、あなたの所得に対して「納めた税金が多過ぎる場合」という事になりますね。
0.21%は「復興特別所得税」で2011年の東日本大震災の後、復興財源を確保するために導入されました(2037年まで続くそうです)。
大切な税金ですが、税率が10%ではなく10.21%になってしまったので、計算がややこしくなったのがやや「フリーランス泣かせ」と言えるかもしれません。
ちなみに、クライアントさんが「一般の方(個人の方)」の場合、源泉徴収されないので、自分で納税する必要があります。
音楽家さんに多いのは、「自宅でピアノ教室を開業していて、(一般の)生徒さんから現金でレッスン料・月謝をいただいている」ようなケース(もちろん「銀行振込」でも)。
あとは、ジャズのライブで、当日「はい、じゃあ今日はいくらね」みたいな感じで現金でギャラを受け取る場合も源泉徴収されていないので、自分で納税する必要があります。
※【前編】で「(B to B = Business to Businessの略)」という言葉が出ましたが、↑こういったケースは「(B to C = Business to Consumer, Customerの略)」と言います(「事業者」が「(一般)消費者」を顧客にしているという意味)。
「知らずに申告をしていない方」も「知っているのに所得をごまかしている方」も、それは「脱税」になるので、必ずきちんと申告・納税しましょう!
請求書の書き方マニュアル(実践編)
お待たせしました!
ここからは「具体的な請求書の書き方」をお伝えします♪
「内税」と「外税」を用意しましたが、⑤の計算方法が変わるだけで、全体の書き方は同じです。
【内税】の場合
【外税】の場合

①先方の宛先
「社名や事務所名のみ」の場合、「御中」を付けます。
経理やマネージャーなどの「個人名」まで書く場合は「音TOWN音楽事務所 藤井様」のように「様」を付けます。
通常、「社名や事務所名のみ」で良い場合がほとんどかな?という印象。
サンプルなので一応「住所」も書いてみましたが、無くても問題はないと思います(経験上、住所を書いていなくて不備で再提出になった事はありません)。
②請求日など
公式な書面で「いつ」にあたる部分はとても重要なので、「請求日」は必ず記入してください(「請求書」は原則「実施後」にやり取りする書面なので④で記入する日付と同じか、それより後の日付になります)。
「請求書番号」はあなたの管理上の番号なので、書かれていなくても問題はありません。
「登録番号」は「インボイス制度」によって義務付けられた番号で、アルファベットの「T」から始まる13桁の番号です。「インボイス発行事業者」になった方は「必須」。
そうでない方は書かなくても大丈夫です(と言うか、割り当てられた番号がないので書けません)。
③あなたの情報
当たり前ですが、「名前」は必須。
「楽器名」は「書いておくと親切」だと思います(万が一「同姓同名」の方がいらっしゃった場合に間違いにくいとか、「いつ、何の仕事をした奏者からの請求書なのか」を先方が把握しやすいといったメリットあり)。
「住所」は、クライアント・税理士側が作成する「支払調書」に住所の記入欄がある点と、その「支払調書」の送付先になる点を考えると、必須と言えますね。
「電話番号」「メールアドレス」は必須ではないですが、不備があった際などは先方から連絡が来るので、書いておいたほうが良いと思います。
※「印鑑」に関しては、実は「押さないといけない」というルールはないので、最近は「不要」になっているケースが増えてきていますが、「慣習」としては残っているので、クライアントによっては「ハンコを押してください」と言ってくるところはまだあるかもしれません。
④実施したお仕事の情報
あなたが「いつ」「どこで」「どんな仕事を」「いくらで」実施したかの記入なので、最も重要な部分と言っても過言ではありません。
「日付」は必ず(演奏やレッスンを)実施した当日を書いてください(作編曲のように、特定の一日でない場合は必要ないケースもあります)。
「内容」は明確なルールはありませんが、ポイントは(証拠書類なので)「先方が処理する際にどんな内容だったか(「いつ」「どこで」「どんな仕事を」「いくらで」)を特定出来るようにしておく」という事(クライアントさんから「こう書いてください」と指示される場合もあります)。
「金額」は、当たり前ですが、「提示されたギャラの金額」を書いてくださいね。
⑤「消費税」「源泉所得税」「請求金額」など(計算方法)
一番面倒、複雑で間違いやすいのがココ!
「インボイス制度」の導入により、「消費税の記入は必須」になりました。あなたが「インボイス発行事業者」でなくても、先方がそうかもしれないので、「原則記入しておく」と思っておいて間違いはありません。
ギャラが10,000円の場合
内税→「10,000円 -(10,000 ÷ 1.1) = 909円」が「消費税」
外税→「10,000円 x 0.1 = 1,000円」が「消費税」
「源泉所得税」は、納める必要がない職種の方もいらっしゃるので、「書いておいたほうが親切」です(税制をよく分かっていない経理スタッフが処理した場合、天引きを忘れるケースがあります)。
※うちの顧問税理士によると、
『原則』は消費税を加算した金額に10.21%をかけて算出することになります。
ただし、『例外』として、請求書において消費税が区分されて記載されている時は税抜の金額で計算出来ます。実務的には、請求書において消費税が区分されている場合には『原則』ではなく、『例外』で計算する事がほとんど。
だそうです。
ややこしいですが、「インボイス制度」の導入後、消費税を分けて記載する事は必須になっているので、「源泉所得税」は「税抜の金額に10.21%をかける」と覚えておけば良いのではないでしょうか。
ギャラが10,000円の場合
内税→「9,091円(10,000円-消費税909円)x 0.1021 = 928円」が「源泉所得税」
外税→「10,000円 x 0.1021 = 1,021円」が「源泉所得税」
そして、「源泉所得税」を差し引いた後の「請求金額(振込金額)」まで記入してあると、事務所側は「入金するだけ」なので、とてもありがたいですね。
ギャラが10,000円の場合
内税→「10,000円 – 928円 = 9,072円」が「請求金額」
外税→「11,000円 – 1,021円 = 9,979円」が「請求金額」
※うちのような小さい会社・事務所は経理スタッフがいなくて僕自身が処理しているので、「源泉所得税」や「請求金額」の記載がないとこちらで計算までしないといけなくなり、手間が増えてしまいます(きちんと正確に書ける音楽家さんのほうがありがたいので、仕事を頼みやすい&ギャラをUPしやすいです!)
⑥振込先(入金先)
これも当たり前ですけど、振込先が書かれていないと先方は入金出来ません(請求書に慣れていない方、結構書き忘れていますね…)。
通常「振込手数料」はクライアント、事務所側の負担だと思うのですが、ブラックな事務所の場合、あなた側に負担させている場合があります(僕は経験はないですが…)。
今回のサンプルには入れませんでしたが、
「誠に恐れ入りますが、振込手数料は御社でご負担いただきますようお願いいたします」
という文言を入れておくと、先方は了承した事になるので、トラブルを防ぐ事が出来ますよ!
交通費(電車賃 etc.)は「内税」
案件によっては、電車賃など、公共の乗り物の交通費を実費で請求する場合がありますよね。
ポイントは「交通費は内税で、消費税が含まれている」ので、ここにさらに消費税をかけてしまうと「二重請求」になってしまう点。
もちろん「源泉所得税」もかけてはいけません。
僕の考えでは、「ギャラと交通費を一枚の請求書で処理すると間違いが起きやすい・計算が複雑になるので、別々にして二枚提出する」のが一番シンプルで簡単だと思います。
というわけで、上記のサンプルも別に作成しました。
小さい額であればあまり問題にならないかもしれませんが、現在はSuicaなどのICカードを使った場合と、切符で購入した場合で運賃が微妙に変わるので、基本的には「正直に使用したほう」を書くべきです。
新幹線など、高額になる場合や、場所によって料金がまちまちな「駐車場代」は「領収書」の提出が必要な場合もあります。
「請求書」の雛型(エクセル)をプレゼント!
極力分かりやすく解説したので「やっと理解出来た!自分でどうにか出来そう!」と感じた方もいらっしゃるかもしれないですし、「理解は出来たけど、計算が面倒・間違いそう…」と感じた方も多いのではないでしょうか?
実際、今でも僕は「後者」です(笑)。
そんなわけで、『音TOWN』の読者になってくださったフリーランスの音楽家さん、ミュージシャンのために、僕なりに「これさえあれば大丈夫・操作しやい」と思う「請求書の雛型」をエクセルファイルにしてみました!
ちなみに僕もエクセル操作は苦手、細かい事はよく分かっていないので(笑)、実験的な意味も含めて「ChatGPT」に作ってもらいました♪(この記事の画像サンプルは、この雛型を使い、PDF→JPGファイルにしたものです)
何度か修正依頼をしつつ、シンプルかつ使いやすい請求書の雛型が出来たかと思います!(うちの会社で使用しているクラウド会計の請求書機能を使って金額の確認もしてみましたが、おそらく大丈夫です!/もしも間違いに気付いた方は教えてください!)
「内税用」「外税用」「交通費用」の3つのシートを作ったので、該当するシートを選んで「単価」に「ギャラの金額」「交通費」を入力するだけ!
(「交通費」の場合、「単価」に片道の運賃を書いて、「数量」を2にすれば往復になります/同じ現場に1回10,000円で3日出演した場合なども、「単価」に10,000を入力し、「数量」を3にすれば自動で30,000円になります)
面倒な「消費税」「源泉所得税」「請求金額」は全て自動で計算してくれます!!
ファイルの受け取り方と初期設定・使い方
・上記のLINEのQRコード、「友だち追加」のボタンから、、『音TOWN』公式LINEの登録をお願いします。
・トークから「請求書の雛型・エクセルファイルをください!」というようなメッセージをいただけたら、ファイルを添付してお送りします。
・ファイルをPCに保存したら、「名前・住所・電話番号・メールアドレス」などの基本情報、「振込先」、「インボイスの発行事業者」の方はTから始まる13桁の登録番号を入力し、「※あなた自身の雛型」を作成してください。
・「請求書」が必要になった場合、※コピー(複製)して、それ以外の必要事項を記入します。
(13行目から17行目まで5項目記入出来るようになっているので、1行目だけで良い場合はそれ以外の情報を削除してください/14行目から17行目のE列をdeleteすると計算式も消えますので注意してください/再度「請求書」が必要になった場合は、大元の「※あなた自身の雛型」をコピーして作成するようにしてください)
・クライアントさんに「メール添付」で(データで)送る場合はPDFファイルに変換、(最近ほぼなくなりましたが)郵送の場合は印刷して送付してください。
※データの場合、「エクセルファイルをそのまま送らない」ように注意! 相手側でも編集・修正が出来てしまう状態で送っても「証明書」になりません(「ビジネスに弱い」「ITに弱い」と宣言しているようなもので、ナメられる要因となります)。
※ファイルダウンロード後の編集などによるデータの破損・PC本体やソフトのバージョンによる不具合などに関しては一切責任を負いかねますので、ご自身の責任の元でご使用をお願いします(特に初回は正しく計算されているかをアナログでもご確認ください)。
自動計算してくれるサイトがあります!
『フリーランスのための源泉徴収税計算』
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源泉徴収税率は10.21%、消費税額は10%を選択。「収入」に
エクセルファイルを使わない「請求書の作成方法」
以前、うちの会社のブログでは「クラウドの請求書作成サービス」の使用をオススメしました。
「エクセルに慣れていない」「スマホ・オンラインのほうが楽」という方は、こちらの方法もアリだと思います!
まとめ
今から25年くらい前、僕がプロになったばかりの頃は、自分で計算して手書きで作成し、郵送していた「請求書」ですが、ここ数年でIT(デジタル)化、クラウド化が進み、格段に便利になりました。
極論、この記事でお伝えしてきた事を何も理解していなくても作業は可能です。
ただ、「税制そのものや納税の意味・意義を理解せずにツールだけ利用している」のと「最低限、消費税や源泉所得税を理解し、自分が納税しているという意識をもったうえで便利なツールを活用している」のは中身、本質が全然違うのではないでしょうか。
「プロとして」「職業音楽家として」、自身の価値・ランクを上げていくためにも、ぜひこのような知識を身に付けてください!
音TOWNプロデューサー/株式会社マウントフジミュージック代表
3級ファイナンシャル・プランニング技能士/トロンボーン奏者、『藤井裕樹』による
『音楽家(ミュージシャン)のための「お金」「キャリア」相談受付中♪』
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藤井裕樹/音TOWNプロデューサー
【株式会社マウントフジミュージック代表取締役社長・『音ラク空間』オーナー・ストレッチ整体「リ・カラダ」トレーナー・トロンボーン奏者】 1979年12月9日大阪生まれ。19歳からジャズ・ポップス系のトロンボーン奏者としてプロ活動を開始し、東京ディズニーリゾートのパフォーマーや矢沢永吉氏をはじめとする有名アーティストとも多数共演。2004年〜2005年、ネバダ州立大学ラスベガス校に留学。帰国後、ヤマハ音楽教室の講師も務める(2008年〜2015年)。現在は「ココロとカラダの健康」をコンセプトに音楽事業・リラクゼーション事業のプロデュースを行っている。『取得資格:3級ファイナンシャル・プランニング技能士/音楽療法カウンセラー/メンタル心理インストラクター®/安眠インストラクター/体幹コーディネーター®/ゆがみ矯正インストラクター/筋トレインストラクター』