青木賢一郎:「コントラバス奏者・指揮者 x 医療事務」|音楽・医療・介護で社会に貢献する生き方♪【後編】
※この記事は【前編】から続いています。
平日はクリニックの事務長として医療業界で働き、週末はコントラバス奏者や指揮者として音楽活動を行う青木賢一郎さん。
20代前半で「音楽一本での生活」をやめ、「コンビニ経営」「介護・医療業界」と渡り歩いた青木さんの人生には「現実をしっかり見つつも“音楽”と真摯に向き合いたい」という純粋な想いがありました。
「決して他業種に転職したわけじゃない」というニュートラルな考え方には、「これからの時代を音楽と共に生きるヒント」が隠されています♪
(【前編】【後編】に分けてお届けします♪)
『音TOWN』(おんたうん)は、『音楽“と”生きる街』をコンセプトに、(プロアマ問わず)音楽家がより生きやすくなるために、主に音楽以外の有益な情報をお届けしています →詳しくはコチラ
この特集は『音楽 x ◯◯』のように、複数の職業を掛け合わせて活動をしている方(“二足のわらじ”の方)をご紹介するコーナー。音楽(演奏)以外のスキルを組み合わせる柔軟性・知識が、多様化する現代をより「ポジティブ」「ハッピー」に過ごすヒントになれば幸いです!
この記事を読むと役に立つ人は!?
・一般職と音楽(演奏)活動の両立を考えている方
・音楽以外にも好きな事、得意な事があり、それを生かしたい方
・音楽で「社会貢献」を考えている方
読んだらどんな良い事が!?
・他分野で生計を立てながら音楽活動を継続する方法が分かる
・音楽以外に本業があっても、音楽を生かして「複業」「副業」をする方法を知る事ができる
・「音楽を通して人を喜ばせる」本質に触れる事ができる
平日は医療事務/週末は充実した音楽活動を♪

藤井:最近の音楽活動はどんな感じですか。
青木:指揮では、知人の紹介で指導をさせていただいた合奏団「シンフォニエッタトゥッティ」が今年で20年になります。
市民オーケストラ「鶴見室内管弦楽団」には立ち上げ時は指揮者として、途中からはコントラバス担当兼トレーナーとして12年携わっています。
定期的に指導に伺っている「港北区民交響楽団」も活動の柱の一つですね。
以前、介護施設の管理者として勤務していた頃から「音楽療法を取り入れた音楽会」を行っていて、昨年1月には「音楽療法士」の資格も取得しました。
現在も「施設での音楽活動」を定期的に開催しています。
また、「横須賀室内合奏団」という団体を地元で立ち上げ、月1回練習を続けています。
あとは、コントラバス奏者としての僕の演奏を聴いていただくライブもやりたかったので、これまで東京と横須賀で開催しました。
不定期ですが、こうしたライブも続けていきたいと思っています。
さらに、お弟子さんには、これまでの経験をすべて注ぎ込むつもりで向き合っていますね。
平日はクリニックの勤務があるので、うまくやりくりしながら週末にこのような音楽活動を行っています。
藤井:ちなみに練習はどうされているんですか。
青木:夜間と週末になりますが、なるべく楽器には触れるようにしていますよ。
自宅は防音ではないんですけど、今は横須賀で隣の家との距離もあるので、夜中以外は家で音を出させてもらっています。
人間としてニュートラルに音楽と向き合いたい!

<昨年開催のライブフライヤー>
藤井:平日は医療関係で社会に貢献し、週末は音楽活動と、大変充実されていますね。
「二足のわらじ」のスタイルによって、いわゆる専業の職業音楽家さん(の一部)よりも“音楽”というものに純粋に、真摯に向き合っている印象を受けました。
青木:音楽への向き合い方というのは多種多様だと思うのです。
その時々の環境でベストを尽くすなか、「いろいろな思いや葛藤と直面するケース」「“自分の理想の音楽”と“現場の目指している音楽”に相違があるケース」も多々あると思います。
そのような環境の中で、若い頃の私は自分の居場所に疑問を抱いたのかもしれません。
クラシックというのは「再現音楽」ですが、「作品を忠実に再現する事を目指す人」もいれば、「その時々の観衆に喜んでもらえる演奏をする人」など、いろいろな方がいるんですよね。
藤井:音楽を含む「サービス業」というのは「ニーズ(求められる事)」が先で、それを提供する事で対価が発生する(報酬をいただける)仕組みなので、ある意味「職業音楽家」としては成功なのかもしれませんが、売れれば何をしても良いわけではありませんよね。
『フリーランスの音楽家が「お金」について学ぶ本当の意味!11の質問付き♪/Vol.21』
参考:「現代は「お金」がないと生きていけない!」
藤井:最近では特に、音楽系YouTuberが「再生数さえ稼げれば良い」だったり、ライブ配信をやっているプレイヤーが、「容姿を売りにして質の低いクラシック、ジャズ、ポップスを演奏して稼いでいる」のも見受けられます。
時代と言えばそれまでで、需要があってお金を払う聴衆がいるなら(エンタメと捉えるなら)それで良いという考え方もある一方、「これが音楽への真摯な向き合い方と言えるのか…」と、疑問、違和感を覚えるのも個人的には正直な印象ですね。
青木:僕は「人間としてニュートラルに音楽に向き合いたい」と考えているんですよ。
そうすると、「いろんな人と関わっている」とか「いろんな事を経験している」というのは、音楽の表現の幅を広げる事になり、「自分の強み」になるんじゃないかと思うんですよね。
藤井:20代前半で音楽業界から離れコンビニを経営。
その後、介護や医療業界に転職した人生を通した人間関係や経験の一つひとつが青木さんの音楽になっているんですね。
青木:世間的には「二足のわらじ」という呼ばれ方をされるのかもしれないですけど、
・「音楽で聴衆に喜んでいただける」
・「コンビニが開いていて良かった、欲しい物が売っていて良かったとお客様に便利に使っていただける」
・「介護施設で利用者様、入居者様、ご家族のお手伝いをさせていただく」
・「医療の事務職として患者様のために専門職の方をサポートする」
というのは僕の中で一本筋が通っていて、他業種を渡り歩いたという感覚はないんですよ。
藤井:最近『音TOWN』でも「目的と手段の区別」について何度か書いているんですけど、青木さんにとって音楽、コンビニ、介護、医療は「誰かを喜ばせたい/お役に立ちたい」という「人生の目的」であって、「手段」がその都度変化していっているだけなんだなと感じました。
『「人生の地図」を持っていますか?─音TOWN1周年に寄せて/Vol.6』
参考:「目的(意図/理由)と手段」
『フリーランスの音楽家が「お金」について学ぶ本当の意味!11の質問付き♪/Vol.21』
参考:「改めて「目的(意図/理由)と手段」について♪」
藤井:僕は今、小さな会社の経営者として「(自社の)音楽教室の講師」/「ストレッチ整体のトレーナー」/「演奏者派遣のコーディネイト」/「音TOWNのプロデューサー兼ライター」のように多種多様な働き方をしているんですが、青木さんと同じで、「誰かを喜ばせたい/お役に立ちたい」という「人生の目的」があって、その「手段」がいくつかあるだけなんですよね。
数年前まではフリーランスの音楽家として、「演奏業」「講師業」「作編曲業」のみの生活をしていましたが、それらは全て一本の線上にあって、会社を設立したとか、他業種に転職したというような意識はあまりないと僕も感じています。
“本当の音楽”を学ぶために若い世代にも知っていただきたい大切な事
<高齢者施設での演奏の様子/ピアノが青木さん>
青木:「手段」はそれぞれ異なりますが、藤井さんも僕も、同じような「人生観」で生きているのかもしれないですね。
学校(のカリキュラム)で教えてもらった事や、職業音楽家として専業であり続ける事が全てではないという一つの考え方は、特に若い世代の方には、なるべく早く気付いてもらいたいですね。
「フォルテと書いてあったら大きな音、ピアノと書いてあったら小さく弾きましょうね」というところから、「壮大な音楽」「明るい音楽」「温かい音楽」「嬉しい/悲しい気持ち」といった豊かな表現を実際に出る音とどう紐付けるか。
そういった事をどこで習うか、培っていくかという事になると思うんですけど、それは決して学校や狭い音楽業界の現場だけではなくて、「さまざまな人生経験によって人間力を上げていく事」と深く関係しているんじゃないかと僕は感じるんです。
敷かれたレールの上を歩いているだけだと、よほど才能があれば何とかなるかもしれませんが、そうでなければどこかで行き詰まる時が来るかもしれません。
お弟子さんのレッスンの際には、僕の考え方や音楽の理論、構造を説明しつつ、必ず「どう思う?」という言葉をかけて、自分自身で考えてもらうようにしています。
楽器(の演奏技術)というのはあくまで手段なので、“音楽”を勉強してほしい。
そんな想いを全力でぶつけるので、1回のレッスンは3〜4時間になる事もあります(笑)。
「横須賀室内合奏団」で地域に音楽コミュニティを!

<「シンフォニエッタトゥッティ」での指揮の様子>
藤井:先ほど「横須賀室内合奏団」という団体を作ったというお話がありましたが、いくつものアマオケにコントラバス奏者や指揮者、指導者として関わられている多忙ななか、さらにご自身で団体を立ち上げられたのにはどのような想いがあったんでしょうか。
青木:「老後の楽しみ・癒し」のためですね。
実は妻がチェロを始めたんですよ。
高校時代にピアノを少し弾く程度でブランクがあったんですけど、僕のライブの伴奏などを手伝ってもらっていたからか、弦楽器に興味が湧いたみたいで、
「チェロをやってみたい!」
という話になりまして。
藤井:奇しくも青木さんが高校時代にオケでやりたかったチェロを選んだというのも縁というか、面白いですね。
青木:そうですね! そうしたら次は、
「人と一緒に弾いてみたい!」
と言い出したんです。
藤井:管弦打楽器を始めたら「アンサンブルがしたい」と感じるのは自然な感情ですよね。
青木:「老後になっても人と一緒に音楽を楽しむには、今から仲間を集めないと!」という事で、地元でお仲間募集を始めました。
横須賀は首都圏とは言っても、楽器をやっている人が東京よりも圧倒的に少ないんですよ。
藤井:単純に人口が少なければ、割合的に音楽をやる人も少ないですよね。
青木:危機感を覚えまして、「これは1年に1人ずつでもお仲間を増やさないと間に合わない!」と思いました。
1年ちょっとかけてメンバーを募集して、ようやく賛同してくださった方といっしょに「横須賀室内合奏団」を結成したんです。
月1回練習して、練習後はご飯や飲み会を楽しむという“ゆるい”団体ですね。
40代後半〜50代の現役の方から60代のリタイアされた方だったり、メンバーは様々。
たまたまかもしれませんが、介護施設の職員さんや看護師さんもいらっしゃいます。
☆「横須賀室内合奏団」のメンバー募集
「ジモティー神奈川版」/「オケ専♪」/「ensemble.fan」
藤井:新しい団体を一から立ち上げるのはいろいろと大変だと思うんですけど、コンビニ経営者として従業員の募集をしていた経験とか、介護の会社を一から立ち上げたとか、医療事務のお仕事を通じてのコミュニケーション力などが非常に役立っているんじゃないでしょうか。
青木:「音楽という共通の趣味でつながる“コミュニティー”作り」という形で、今まで僕がやってきた事が地元に還元できたらという想いがありますね。
先日は葉山の老人ホームで記念すべき初めての本番も開催しました。
もちろん本番は真剣に取り組みますが、“最重要行事”の「暑気払い」と「忘年会」は、毎回いちばん熱心かもしれません(笑)。
藤井:プロアマ問わず、「音楽家あるある」ですね(笑)。
『さいたま市(浦和・大宮・岩槻)で“大人のジャズ”を楽しむ♪|講師運営の社会人ビッグバンド』
参考:「ほどよい距離感が心地いい“大人のコミュニティ”」
藤井:介護や医療の現場に関わっているとなおさらだと思うのですが、『音TOWN』でも取り上げている「QOL(クオリティー・オブ・ライフ)」や「Well-being(ウェル・ビーング)」、「健康寿命」などの大切さを日々実感されているんじゃないでしょうか。
「音楽」は必ずその手助けになりますよね。
『フリーランスの音楽家さんも意識したい「QOL」とは!?/Vol.2』
青木:介護施設などで演奏すると、近い距離で音楽を感じていただく事ができますし、ピアノに合わせて歌ったり手拍子をしたり、皆さんとても喜んでくださいます。
「嬉しかった、楽しかった、また来てください!」
とお声がけいただくと、「音楽の力」というものを感じますよね。
ただ、「音楽は素晴らしいもの」という反面、コロナ禍がそうだったと思いますが、あの状況下で我々音楽家はものの見事に職を失いました。
やはり生きていくためには「衣食住」が優先であって、「音楽というのはあくまでプラスの付加価値」だという現実をしっかり理解したうえで音楽の仕事に従事する必要があるのではないでしょうか。
クラシックは特に、演奏会に行っても観客に若い方が少ないと感じます。
「裾野を広げる活動」をしていかなければ、これからの音楽業界は、コロナ禍のような事態でなくても仕事が減ってしまうかもしれませんね。
その昔、綺麗な衣装を着飾ってホールに来ていた紳士・淑女の方々はすでに高齢で来場できなくなっているか、何とか来場できていても…という状況です。
藤井:「音楽の力」を使って「高齢者の健康寿命を伸ばす活動」や、「若い世代がクラシックに興味をもつための啓蒙活動」などはこれからの未来、一層大切になってくると感じますね。
青木さんのように「音楽 x 医療・福祉・介護」という「二足のわらじ」は「社会貢献」の意味でもとても意義のある生き方、働き方なんじゃないかと思います。
最後に、これからの展望を聞かせていただいてもよろしいでしょうか。
青木:シンプルです。
これからも、様々な演奏、指導の機会に於いて、「自分が伝えたい音、伝えたい音楽」を追求し、その空間(空気)、想いを共有させていただければ嬉しいと思います。
必要な時には今の生活スタイルを変える潔さをもちつつ、「音楽家 x 医療事務」という人生の中で、一人でも多くの方の心に音楽を届けていきたいですね♪
青木 賢一郎(Kenichiro Aoki)東京音楽大学付属高校ピアノ科卒業。東京音楽大学コントラバス科卒業。ピアノを中島和彦、小林出の両氏に、コントラバスを永島義男、斉藤順の両氏に、指揮を紙谷一衛氏に師事。
現在フリーのコントラバス奏者として、スタジオ録音や、オーケストラへのエキストラ出演、室内楽等で活動。またアマチュアオーケストラの指導も精力的に行っている。
シンフォニエッタトゥッティの指揮者は2004年より務めている。
また、鶴見室内管弦楽団のトレーナーを創立時より務めているほか、介護施設等へ音楽を届ける活動も積極的に行っている。
藤井裕樹/音TOWNプロデューサー
【株式会社マウントフジミュージック代表取締役社長・『音ラク空間』オーナー・ストレッチ整体「リ・カラダ」トレーナー・トロンボーン奏者】 1979年12月9日大阪生まれ。19歳からジャズ・ポップス系のトロンボーン奏者としてプロ活動を開始し、東京ディズニーリゾートのパフォーマーや矢沢永吉氏をはじめとする有名アーティストとも多数共演。2004年〜2005年、ネバダ州立大学ラスベガス校に留学。帰国後、ヤマハ音楽教室の講師も務める(2008年〜2015年)。現在は「ココロとカラダの健康」をコンセプトに音楽事業・リラクゼーション事業のプロデュースを行っている。『取得資格:3級ファイナンシャル・プランニング技能士/音楽療法カウンセラー/メンタル心理インストラクター®/安眠インストラクター/体幹コーディネーター®/ゆがみ矯正インストラクター/筋トレインストラクター』













