森田耕:「トロンボーン奏者 兼 草津温泉のカフェオーナー」という生き方【後編】
※この記事は【前編】から続いています。
千葉県浦安市の某テーマパークのトロンボーン奏者を経て、草津へ移住。観光協会のお仕事を経験した後、ご自身のお店『森田コーヒー』をオープンし、カフェーオーナーとなった森田耕(こう)さん。
それぞれの場所での「学び」「出会い(ご縁)」「経験」を生かし、フレキシブルに生きる森田さんのユニークな人生には、これからの音楽家さんの人生設計にも役立つ「情報」や「考え方」が満載でした!
(【前編】【後編】に分けてお届けします♪)
「音TOWN」(おんたうん)は、『音楽“と”生きる街』をコンセプトに、(プロアマ問わず)音楽家がより生きやすくなるために、主に音楽以外の有益な情報をお届けしています。
この特集は『音楽 x ◯◯』のように、複数の職業を掛け合わせて活動をしている方(“二足のわらじ”の方)をご紹介するコーナー。
音楽(演奏)以外のスキルを組み合わせる柔軟性・知識が、多様化する現代をより「ポジティブ」「ハッピー」に過ごすヒントになれば幸いです!
この記事を読むと役に立つ人は!?
・この先「音楽一本」で食べていく事に不安を感じている方
・音楽以外にも好きな事、得意な事があり、それを生かしたい方
・「地方移住」に興味のある方
読んだ後に解消される不安は!?
・「プロの音楽家は音楽以外の仕事をしてはいけない」という先入観から解放される
・「副業」「複業」探しの選択肢が広がる
・「地方移住」という選択肢を知り、視野、可能性が広がる
コロナ禍だから出来た!?料理の修行
<人気メニューのナポリタン>
藤井:営業時間以外にはどんな「売り」がありますか。
森田:藤井さんが前回(2024年4月)に来てくれた時に食べてくれたナポリタンのようなスパゲッティ類だったり、トースト類のような喫茶店系の洋食を出しているカフェは草津にはあまりないので、結構受けていますね。
ガッツリした量を出しているお店も少ない印象があります。
藤井:森田さんは元々というか、今もトロンボーン奏者(ミュージシャン)なんですけど、料理はどうやって覚えたんですか。
森田:もちろん、当時は料理のプロではなかったんですけど、昔から好きで、料理自体はよくやっていました。
最初は「自分の好きだったものを出そう」という感じですね。
観光協会を辞めてお店を出す準備をして、開店した2022年5月はコロナ禍真っ只中だったんですけど、日本中の飲食店が営業出来なくなっていたので、「YouTuber」的な事をやっている有名なシェフが結構いたんですよ。
そういう人たちが、自分のレシピを惜しみなく公開していたんですね。
本格的なイタリアンもあれば、「イタリアンのシェフが家庭にある材料で美味しく作るナポリタン」なんかもあって、それがとても勉強になりました。
それを参考に自分でも試行錯誤して作ったのが今のメニューなんですよ。
多分、こんな機会はもう二度とないですよね。
藤井:正にピンチはチャンス!
あの頃は音楽家(ミュージシャン)も、普段は無料で動画を撮って発信しないような大御所たちもYouTuberのようになっていました。
コロナ禍は本当にいろいろな人にとって人生を考えるターニングポイントになったと思いますね。
<人気メニューは写真でご紹介♪>
「成功する店作り」ではなく「失敗しない店作り」とは!?
藤井:ちなみに、「サイフォンで淹れるコーヒー」も『森田コーヒー』の名物ですよね。
コーヒーもYouTubeで学んだんですか。
森田:YouTubeも参考にしなかったわけではないんですけどね。
横浜に昔ながらの「六角橋商店街」という場所があって、そこで十数年「珈琲文明」という名前の喫茶店をやっている方が、開業希望者向けの「オンラインサロン」をやっているのを、たまたまネットサーフィンをしていて見付けたんです。
そのサロンのメンバーになって勉強しました。
藤井:コーヒーの淹れ方だけじゃなくて、「喫茶店経営そのもの」も同時に学べるオンラインサロンなんですね。
森田:その方の提唱しているメソッドが少しユニークで「成功する店作り」ではなくて「失敗しない店作り」なんです。
音楽の仕事でも何にでも当てはまると思うんですけど、「成功した人のノウハウ」って実は誰にも分からないんですよね。
「成功した人がたまたまそういうルートをたどっていた」という検証は出来るけど、「その通りにやれば(誰でも絶対)成功する」とは言えないじゃないですか。
逆に「これをやったら失敗するよ」みたいなのは「経験上」だったり、「他の人の失敗例」で証明されているので、「とにかく、徹底的にそれを避けなさい」。
そうすれば、「大儲けは出来ないかもしれないけど、細く長く、家族を養うくらいの経営は出来るはずだ」
というような教えでした。
藤井:なるほど。逆転の発想というか、面白い考え方ですね!
森田:この方は、ご自分が20席ちょっとの喫茶店をワンオペでされているので、「ワンオペ、もしくは夫婦2人で経営する喫茶店」に特化しているメソッドだったというのもちょうど良かったんです。
オンラインなので、観光協会の仕事をしながら隙間時間で勉強出来て、たまにオンラインでない実際のセミナーに参加したりもしました。
完全に教え通りに(失敗パターンを)避けられているかはわからないですけど、避けながら何とかこうして経営は出来ていますね。
<サイフォンコーヒー/サイフォンごと1.5杯分提供されます>
これは「失敗を避ける話」ではなく、「売り・差別化の話」になるかもしれませんが、「サイフォンで淹れた約1.5杯分のコーヒーをサイフォンごと提供して、お客様自身がおかわりを注ぐ」というスタイルも、ここで教わって取り入れたものです。
藤井:こうした「差別化や演出」も、一種の「失敗しない店の秘訣」と言えるかもしれないですね。
森田:この方のお店は「横浜で一番辛いカレーパン」というのも「売り」にしているんですけど、「コーヒーだけに特化していない」のも「失敗しないコツ」だそうです。
そこを「うちはコーヒー1本なんで!」というふうにこだわり過ぎると潰れやすいんですね。
藤井:「二兎追うものは一兎をも得ず」という考え方もありますが、「僕はクラシック1本なんで!」とか「トロンボーン1本なんで!」だと、相当優秀な方以外はコケる(失敗する)可能性は高まりますもんね…
「クラシックだけでなく、ジャズやポップスも出来る」とか、「サックス奏者だけどフルートやクラリネットも演奏出来る」とか、「演奏だけじゃなくて教えるのも上手い」とか、「売り」が多いほど強いと感じます。
森田:あとは、たくさん集客したいからと言って席数を増やして、結果1人、2人でさばけるキャパを超え、お客様を待たせたり、帰らせたりしてしまい、顧客満足度が下がってしまって失敗するとか。
藤井:フリーランスは基本、1人で仕事をしているのに、自分のキャパ(限界)が分かっていなくて、仕事を請けすぎて「体調を崩す(仕事に穴を開ける)」とか、「練習時間が減って演奏クオリティが下がる」とか、「演奏の現場には遅刻してこないけど、アレンジの仕事を頼んだら納期(締め切り)を守らない」とか、僕が過去に関わった人でも失敗している音楽家さん、結構いました。
バンドリーダー、プロデューサー、事務所、経営をやっている立場からすると、ほぼ一発アウト。厳しいですけど、二度と声を掛ける事はないですよね。
実際のところ、こういう失敗をした人たちは消えていっていて、「失敗していない人たちが生き残っている」(結果的に成功している)と言えるかもしれません。
「失敗しない店作り」は、フリーランスの音楽家さんでも生かせる要素が満載ですね!
<森田さんが参加したオンラインサロン>
音楽家とカフェの両立
<店内にはプラスチックのトロンボーンが立ててあり、いつでも演奏・練習が可能>
藤井:ところで、この11月、12月はトロンボーンでまとまったイベント出演もあるそうで、東京(首都圏)と草津を行き来しているそうですね。
森田:若干過労気味です(笑)。
藤井:練習はどうしているんですか。
森田:このお店は「昼間に少し音を出すくらいはいいよ」と大家さんから言われていて、お客様がいない時に少し練習する事もあります。
誕生日のお客様がいらっしゃると「ハッピーバースデー」を演奏してあげる事があるんですけど、観光地なので「今日は家族・パートナーの誕生日だからちょっと温泉にでも」みたいな方は意外に多くて、割と演奏の機会はあるんですよ。
これが結構喜ばれて、「売り」の一つにもなっていますね。
とは言え、あまり練習時間は取れなくて、毎日は出来ないんですけど、先ほども(前編でも)お話しした、テーマパーク時代に「いかに負担の少ない奏法にしていくか」や「いかに効率良くウォームアップするか」を試行錯誤した経験は今、役に立っていますね。
藤井:クラシックの奏者は特に「毎日絶対休まず練習しないといけない」とか「ウォームアップは何時間もかけて丁寧に」という考えの方が多いかもしれませんが、必ずしもそうではない気がします。
(真面目過ぎる)日本人と違って、欧米の奏者なんかはもっと上手にオンオフを作って、「長期の休みで楽器を持たずに優雅にバカンス」みたいな方、結構いらっしゃいますよね。
僕も今、こうして取材を兼ねて草津に来ているんですけど、良いリフレッシュ・気分転換になっていますよ!
こういう「発想の転換」も、「両立・二足のわらじのコツ」と言えるかもしれません。
サステナブル(持続的)に音楽の仕事を継続していくためにも「ココロとカラダの健康」はとても大切ですよね。
森田:その通りですね!
病気から学んだ健康管理の大切さ
<森田さんのテーマカラーである「黄色」を基調にした店内>
藤井:「健康」と言えば、以前、大きな病気をされていましたよね。
森田:「急性心筋炎」という病気でした。
風邪などのウイルスや細菌が心臓の筋肉の中に入ってしまって心筋が腫れ上がる病気で、酸素を取り込めなくなったり(呼吸困難になったり)、肺に水が溜まったり、胸の痛みが出たりする病気です。
入院中にいろいろ調べてみたら、40代以下の突然死の20%を占めているらしいですよ。
藤井:大変でしたね… ちなみに、いつ頃の事でしたっけ。
森田:このお店をオープンしてもうすぐ1周年の頃でしたね。
何日か前から「ちょっと息苦しいな」という感覚があって、その数日後の夜、急に息が出来なくなったんですよ。
横になると余計に苦しいので、起き上がった状態で、それでも一晩眠れずに過ごしました。
本当はその段階で救急車を呼ぶレベルだったみたいなんですけど、「夜中に呼んだら迷惑だよな…」と思ってしまったんです。
翌朝一番に近くの病院に行ってレントゲンを撮ったら「すぐに紹介状を書くから循環器の専門病院に行ってください」と言われて、常連のお客様に、ここから1時間くらいの病院に連れて行ってもらって、そのまま即ICUに入りました。
藤井:一つ間違ったら命に関わっていたかもしれないですよね…
森田:そうですね。緊急入院でICUには入るけど、手術はせずに薬で経過観察をしながら回復にもっていけたという点ではまだ良かったほうと言えるかもしれません。
藤井:「急性心筋炎」は誰でもなる可能性があるんですか。
森田:そうみたいですね。生活習慣なんかは一切関係ない病気らしいです。
藤井:今も通院や治療はされているんですか。
森田:心臓のポンプ機能は少しずつ回復していて、投薬をしながら様子を見ているという状況ではありますが、普通に生活は出来ていますよ。
逆に、こういう病気をした事で心臓周りをしっかり調べて、心筋梗塞や狭心症の疑いは全然ないと分かったので、その点は安心なんですけど。
藤井:演奏の仕事とか、こういったお店の仕事は問題ないんですか。
森田:循環器の医学も日々進歩していて、昔は「心臓病はとにかく安静に」だったらしいんですけど、今は、安静にし過ぎると弱ってしまうので、「有酸素運動」はむしろやったほうが良いという考え方のようですね。
トロンボーン(管楽器)はいわゆる「腹式呼吸」で有酸素運動なので、逆に良いんじゃないかと思います。
藤井:一度病気をすると今まで以上に気を付けるようになるので、その後の人生はより健康になる方もいらっしゃいますよね。
森田:お酒の量は減りましたね。あと、睡眠には気を付けています。
最低でも6時間は寝たいので、朝8時にお店を開けるためには23時に寝て、5時に起きるようにはしたいですね。
藤井:僕は6時間では全然足りなくて、7〜8時間は寝るようにしていますよ。
「お客様のカラダに直接触れる・お客様を元気にする仕事」をしている事もあって、自分自身の健康にはとても気を使うようになりました。
自分が疲弊した状態で施術や接客をしていたら、お客様は絶対に元気に(幸せに)ならないですからね。
音楽とコーヒーで街を盛り上げたい!
<『森田コーヒー』のグッズの数々>
藤井:最後に、今後の展望を聞かせてください。
森田:お店に関しては、今は8時から18時まで通しで営業しているんですけど、アイドルタイム(ピークでない時間)を見極めて、営業時間を減らしたいというのはありますね。
藤井:いい意味で細く長く続けていくためには「休む事」も重要ですからね。
森田:あとは、グッズの展開や(個包装の)ドリップバッグの販売を増やしたいですね。
ドリップコーヒーはお土産屋さんやイベントでも好評なんですけど、今はまだ一つ一つ手作りなんです。
営業後に内職的に作っているんですけど、イベントだと500個発注がきたりするので、多少原価は上がっても外注にしていきたいと。
藤井:「自分の分身を作る」じゃないですけど、例えばネットショップのように、自分が働いていない時にもお金が落ちてくる仕組みを作り出すのも大事な要素だと思いますね。
森田:音楽のほうは、街の中でもう少し音楽をやる機会が増えると良いなと思っています。
海外の著名なクラシック奏者が来日してコンサートやマスタークラスを行う「草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル」というイベントもあって、比較的草津は「音楽の街」ではあるんですが、これまで培ってきた人脈を生かして、もっと音楽を身近に出来たら良いなと考えています。
演奏を聴いてくれたお客様が、それきっかけで『森田コーヒー』を知ってくれて来店するといった循環も生まれてくると良いですよね!
森田耕(Ko Morita)トロンボーン奏者/『森田コーヒー』オーナー
1976年東京都千代田区生まれ。
5歳よりバイオリン、9歳よりピアノ、12歳よりトロンボーンを始める。トロンボーンを丸山博文、清岡太郎、小泉邦男、古賀慎治、故永濱幸雄の各氏に師事。
日本大学芸術学部音楽学科卒業。在学中よりビッグバンド、ディキシーランドジャズ、オーケストラ、スタジオ、遊園地等、さまざまな環境での演奏活動を通じて、ほとんどのジャンルをこなせるフレキシビリティの高さと、抜群のスタミナ、音量&音域&音色の幅広さを獲得。
トロンボーン奏者として活動した後、草津温泉で信号ラッパや豆腐ラッパを吹いたりしています。
森田コーヒー(moritakoffee)
〒377-1711 群馬県吾妻郡草津町草津454-6
営業時間 8:00-18:00 不定休(営業日は下記GoogleマップやSNSをご覧ください)
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藤井裕樹/音TOWNプロデューサー
【株式会社マウントフジミュージック代表取締役社長・『音ラク空間』オーナー・ストレッチ整体「リ・カラダ」トレーナー・トロンボーン奏者】 1979年12月9日大阪生まれ。19歳からジャズ・ポップス系のトロンボーン奏者としてプロ活動を開始し、東京ディズニーリゾートのパフォーマーや矢沢永吉氏をはじめとする有名アーティストとも多数共演。2004年〜2005年、ネバダ州立大学ラスベガス校に留学。帰国後、ヤマハ音楽教室の講師も務める(2008年〜2015年)。現在は「ココロとカラダの健康」をコンセプトに音楽事業・リラクゼーション事業のプロデュースを行っている。『取得資格:3級ファイナンシャル・プランニング技能士/音楽療法カウンセラー/メンタル心理インストラクター®/安眠インストラクター/体幹コーディネーター®/ゆがみ矯正インストラクター/筋トレインストラクター』