検索上位=良い音楽教室とは限らない!フリーランス音楽家も生徒も知っておきたい「教室選び」の裏側/Vol.32

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最近は「○○駅 ピアノ教室」「△△市 サックス教室」などで検索すると、「店舗(教室・スタジオ)を持たない音楽教室」が上位に表示される事が珍しくありません。

自宅近くでレッスンを受けられる事や、全国どこでも講師さんを紹介してもらえる事は、生徒さんにとって大きなメリットです。

一方で、そのビジネスモデルを詳しく見ていくと、本当に「講師」「生徒」「運営会社」の三者が幸せになっているのだろうかと疑問を感じるケースもあるんですよね。


『音楽教室だけではない!?フリーランス音楽家が「搾取」されないために知っておくべきお金の話/Vol.31』

前回の記事でもお伝えしたように、最近は「フリーランス新法」違反で勧告を受ける教室運営会社が相次いでいますし、「法律に違反していなければ何をしてもいい」という発想にも見える事例も増えている気がします。

だからこそ、講師さんも、生徒さんも「どこの教室で働くか」「どこの教室で習うか」を見極める力が必要になってくるのではないでしょうか。

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“実店舗を持たない”音楽教室のビジネスモデル


近年増えているのが、「個人でなく、法人(会社)なのに、自社で教室やスタジオを持たず、一般の貸しスタジオを利用してレッスンを行うスタイル」

店舗を持たなければ、「家賃・光熱費」「設備の維持管理費」「受付スタッフの人件費」などの固定費を大きく抑える事ができるのは想像が付きますよね。

その代わり、ネットの広告やSEOへ積極的に投資し、「○○駅 ギター教室」「○○市 ボーカルレッスン」といった検索結果で上位表示を狙います(「お金」で検索上位を買っている状態)

利用者から見ると、全国展開している大手教室のように見えますが、実際には自社スタジオを持たず、各地の貸しスタジオを利用してレッスンを行うというビジネスモデルですね。

※最近は法人登記ができるコワーキングスペース(レンタルオフィス)も増えてきているので、例えば東京23区の一等地に自社オフィスがあるかのように見せる事も可能(月額数千円で1ブースだけ借り、数人のスタッフが在宅ワークで稼働していたとしても全国展開の教室に見せる事が可能)/さらに、月額を払えば「東京03」の電話番号が取得できるスマホのアプリもあるので、電話番号だけでは本当に東京23区に所在があるのか分からなくなっています

もちろん、これは今の時代に合った経営戦略の一つであり、否定されるべきスタイルではありません

貸しスタジオ運営会社にとっては利用者が増える可能性もあるので、その面においてはウィンウィンになっているケースもあります。

ただ、僕が問題だと感じるのは、「講師さんに対してきちんと対価を支払っているか(「運営会社に誠実さがあるか」)」という点なんですよね。

うちのスタジオで実際に起きた出来事


以前、僕が運営・経営している「音ラク空間」に、このスタイルの音楽教室(「T音楽教室」)から「提携スタジオとして登録してほしい」という依頼がありました

ですが、うちも「音楽教室を運営」しているので(ある意味「ライバル会社」に当たるので/うちでお願いしている講師さんたちの機会損失を誘発してしまうかもしれないので)、お断りをしたんです

ところが後日、T音楽教室に所属する講師さんが、教室名ではなく「個人名義」でスタジオを予約し、レッスンを行っている事が発覚しました。

うちは「レンタルスタジオ」の事業も行っていて、個人事業主(フリーランスの講師さん)にはレッスン会場としての提供をオフィシャルで行っています

個人名義で予約をされた場合、通常は気付かないんですが、講師さんらしき予約者が違う人なのに、生徒さんらしき人が同じだった事があって(僕が生徒さんの顔を覚えていたので)、不審に思い、確認したところ「T音楽教室のレッスン」と判明したんですよね(前任者が講師を辞めたために、引き継ぎで別の講師が来て発覚)。

話を聞くと、「スタジオの予約も講師自身が講師の名義で行っている」し、「きちんと『T音楽教室の◯◯です』と、スタジオを貸す側に伝えるように」とも言われていないとの事。

これ、おかしいと思いませんか?

この講師さんはT音楽教室と業務委託契約を結んでレッスンを行っているわけで、フリーランスとは言え、T音楽教室の利益にもなる委託業務を遂行しているんですよね。

運営会社にクレームの電話を入れたんですけど、「講師は個人事業主で、業務委託なので個人に任せています」といった責任逃れの発言で、再度うちのスタジオは使わないようにお願いしましたが、最近もまたT音楽教室の講師さんによる利用がありました(この方は正直に名乗ったのでOKにしましたが、運営会社からはやはり、うちが利用NGのスタジオというような指示は受けていないとの事でした)

※こういう教室は、もしも何かで生徒さんとトラブルや裁判沙汰になった時、守ってもらえず、個人の責任にされる可能性が高いと思います。

Uber Eatsで考えると分かりやすい?


この仕組みを、Uber Eatsで例えてみると分かりやすいかもしれません。

僕は在宅ワークや多忙な時、たまに利用するんですけど、配達員が料理を届ける時は必ず、「Uber Eatsです」と名乗るわけです。

なぜなら、配達員は個人事業主であっても、Uber Eatsというサービスの一員として仕事をしているからですよね。

もしもUber Eatsで頼んでいるのに、配達員が、

「◯◯です。個人的に料理を届けに来ました。」

と言って配達したら、不自然に感じるでしょう。

と言うか、Uber Eatsだと「名乗らない事(配達員の個人名しか出さない事)」にメリットがない、隠す必要がないですよね。

T音楽教室のやり方は、それに近い違和感がありました

教室側が集客し、生徒を獲得し、おそらく結構なマージンを抜いて講師さんへ仕事を紹介しているにもかかわらず、スタジオの予約は講師さん個人が行い、外から見ると個人教室のレッスンのような形になっていました

先述の通り、うちは以前に「同じ教室事業を行っている店舗なので、そのような形で他の教室事業者(法人)にレンタルするのはお断りします」と伝えているんですよね。

明らかに「講師の個人名義で予約をしてしまえばバレないのでOK」というやり方で、これって「誠意がない」、もっと言えば「悪どい」と感じませんか?

講師の報酬は最低賃金並み?


発覚した時のT音楽教室の講師さんに報酬などについて伺ってみたところ、

・スタジオ予約も自分で行う(おそらく生徒さんとのスケジュール調整も行っています)

・交通費は自己負担(移動時間も当然無給)

この方は千葉県の松戸の辺りからうちのお店がある江戸川区西葛西まで60分の1人のために来ていたので、交通費を差し引くと、儲けは(東京都か千葉県の)最低賃金並みか、それ以下だとおっしゃっていました。

うちを騙して(T音楽教室ではなく、個人レッスンのフリをして)レッスンを行っていた問題は一旦置いておくとして、百歩譲って、例えば、講師さんに生徒さんとのスケジュール調整やスタジオの予約業務を任せるのであれば、その分、講師側に多くのマージンを支払うとか、交通費を支給すれば良いだけ(仕事に見合った報酬を支払えば良いだけ)の話なんですよね。

ですが、結果的に最低賃金レベルになっているという事は、

「本来、教室運営側が行うべき事務仕事、マネージメント業務を講師さんに無報酬でやらせ、自分たちは実店舗も、必要な数の事務スタッフも持たずに経費を削減して、上前をはねている」

と考えるのが自然ではないでしょうか。

※所属の講師さん全員が同じ待遇かは分かりませんし、もしかしたら勤続年数や生徒数に応じてベースアップはあるのかもしれませんが、このような運営をしている会社がまともな報酬を支払っているとは個人的には考えにくいです。

「やりがい搾取」が起きてしまう理由


この講師さんに、

「これ、完璧に講師を利用して運営会社側だけが儲かるビジネスモデルですよ」

と教えてあげたんですけど、「初めて気付いた(理解した)」というような反応でした。

これがずっと『音TOWN』でお伝えしている「音楽家がお金・ビジネスについて学んでいない事の弊害」なんですよね…

井生俊介:「僧侶 x 経営者 x 経理 x 宅建士」“四足”のわらじの生き方♪サムネイル画像_音TOWN
『井生俊介:「僧侶 x 経営者 x 経理 x 宅建士」“四足”のわらじの生き方♪』
参考:「音大は「飯を食う事」を教えていない!?」

三菱UFJ銀行支店長から山野楽器取締役へ 異色の経営者から学ぶ大野充明さんのインタビュー画像 後編
『大野充明:「三菱UFJ銀行支店長→山野楽器取締役」異色の経営者から学ぶ♪【後編】』
参考:「フリーランスの音楽家に伝えたい事」

僕だったら絶対こんな教室では働かないんですけど、講師Aさんは、

・結婚していて旦那さんの扶養。生活できているし、(扶養の維持のために)収入の上限があるから構わない

・癌を患ってしばらく音楽の仕事から離れていたので、レッスンができるだけで嬉しい

とおっしゃっていました。

まあ、これはある程度理解はできますし、頭ごなしに否定できる内容でもありません。

しかし、、

音楽を教える事にはお金では測れない喜びがあるのは事実ですが、

・私は実家がお金持ちだから/旦那さんが稼いでいるから報酬の額は関係ない

・利益は出ないけれど、好きだから続ける

・採算は合わないけれど、教えられれば満足

というような講師さん(ミュージシャン)がたくさんいると、運営側からすると、「その条件でも人は集まる」という既成事実になり、結果として適正な報酬で生活している音楽家の相場まで下げてしまう可能性高いんですよね

つまり、、

「音楽を生業(なりわい)にして生活していかないといけない方、本気で頑張っている方が食べていけなくなってしまう」

わけです。

前回の記事で出てきた「S楽器」や「K楽器」のような大手までもが不正を行うのは、正にこの仕組みで、「報酬が低くても契約して働いてしまう講師さんが大勢いたから」だと思います(不景気、物価上昇などで、無報酬の体験レッスンや低賃金のレッスン報酬では食べていけない方が増え、ついに不満が爆発した状態)。


『音楽教室だけではない!?フリーランス音楽家が「搾取」されないために知っておくべきお金の話/Vol.31

「やりがい」というのは本来搾取されるものではなく、「適正な報酬を受け取った上で」感じるものではないでしょうか。

※仮に本当に収入度外視でレッスンをしたいのであれば、国内外の貧困の子どもたちなどに楽器を教えてあげれば良いのにと個人的には感じます(僕は以前、フィリピン・セブ島のスラムの子どもたちに音楽を教えていた事もあります)。

採用のハードルを下げることが、本当に業界のためなのか?

ちなみにこのT音楽教室でも講師業を行っている方が別々に2名、うちの教室の講師に応募してきた事がありましたが、どちらも技術面、社会人としてのマナー面に問題があり、当然採用には至りませんでした

※どちらかと言うと、楽器の技術はある程度あるが、メールのやり取りなどが社会人レベルではない(スピード感や文章力)、面接での態度が良くないといった感じでした(コンサートでの演奏の仕事は成り立つかもしれませんが、ある意味「接客」である講師業が務まるとは思えないレベル)。

もちろん、この2名の事例だけで教室全体を評価する事はできません。

しかし、全国へ急速に展開するビジネスモデルでは、多数の講師を確保する必要があります

その結果として、採用基準や教育体制が十分に維持できているのかという点は、生徒さん側も確認したほうが良いポイントだと思います。

「講師数が多い事」と「質が高い事」は、必ずしもイコールではありません

健全な教室(会社)は「三方よし」で成り立っている!


「三方よし」
という言葉を聞いた事がありますか?

これは「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の3つを満たす事を目指す近江商人の経営哲学です。

健全なビジネスであれば、「生徒さん」「講師さん」「運営会社」がウィンウィンウィンとなり、3者がハッピーでないといけないわけですよね。

・生徒さんはレッスン料の他にスタジオのレンタル料も支払っているので、決して安くもない(割高でも、家の近所で習える付加価値として納得しているなら良いですが)

・講師さんの報酬(利益)はごくわずか

・にも関わらず、スタジオも(本来必要な数の)スタッフも持たない運営会社が多くの利益を独占している

という状態が「三方よし」と言えるでしょうか?

ちなみにこの状況は、美容・飲食・旅行の予約サイト、大手通販サイトなどにも言える事で、「運営している巨大なプラットフォーム企業」と「安くサービスを利用できる顧客」はウィンウィンの関係ですが、登録している店舗や会社の利益は薄くて泣いているというケースが結構あります

顧客側は安いとつい利用しがちですが、「三方よし」になっていないサービスは利用しないという意識も必要だと思いますね。

ちなみに、『音TOWN』でご紹介した諸藤一平さんが運営する教室は、オンライン主体で当然実店舗を持たないわけですが、運営側ではなく、講師側がご自身の希望する報酬に設定できるそうなので、健全な運営スタイルだと思います!


『諸藤一平:「オンライン音楽教室経営者 x ドラマー/作曲家」としての生き方♪【後編】』

まとめ|音楽家も生徒も「仕組み」を見る時代へ

これからの時代は、検索順位や広告だけで教室を選ぶのではなく

「誰がどのようなやり方で運営しているのか」

「講師(中間業者)へ適正に還元されているのか」

という視点がますます重要になります。

フリーランス新法の施行によって、契約や報酬の透明性はこれまで以上に求められるようになりました

違法かどうかだけではなく、講師・生徒・運営会社の三者が納得できる関係になっているか

その「仕組み」を見極める力こそが、これからの音楽業界には必要なのではないでしょうか


音TOWNプロデューサー/株式会社マウントフジミュージック代表取締役
3級ファイナンシャル・プランニング技能士/トロンボーン奏者
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藤井裕樹

藤井裕樹/音TOWNプロデューサー

【株式会社マウントフジミュージック代表取締役社長・『音ラク空間』オーナー・ストレッチ整体「リ・カラダ」トレーナー・トロンボーン奏者】 1979年12月9日大阪生まれ。19歳からジャズ・ポップス系のトロンボーン奏者としてプロ活動を開始し、東京ディズニーリゾートのパフォーマーや矢沢永吉氏をはじめとする有名アーティストとも多数共演。2004年〜2005年、ネバダ州立大学ラスベガス校に留学。帰国後、ヤマハ音楽教室の講師も務める(2008年〜2015年)。現在は「ココロとカラダの健康」をコンセプトに音楽事業・リラクゼーション事業のプロデュースを行っている。『取得資格:3級ファイナンシャル・プランニング技能士/音楽療法カウンセラー/メンタル心理インストラクター®/安眠インストラクター/体幹コーディネーター®/ゆがみ矯正インストラクター/筋トレインストラクター』