大学からの講演依頼を断った理由|フリーランス音楽家が「安売り」してはいけない本当の意味/Vol.34
2020年に出版させていただいた「音大生のための“働き方”のエチュード」をきっかけに、以前、とある音楽系の大学から「学生向けに講演をしてほしい」という依頼をいただいた事があります。
初めての講演依頼だったので、僕自身かなり興味があり、多少条件が悪くても「(学生さんへの)貢献」「経験」「投資」と考えて受けるつもりだったのですが、打ち合わせを進めるほど、
「そもそも、この講演は何のためにやるんだろう?」
という疑問が大きくなっていきました。
さらに、「低い謝礼」「実績として公表できないという条件」「講演動画のコンテンツ化」まで求められ、結果的には断る事に。
今回はこの経験談を元に、最近「音TOWN.biz」でも続けてお伝えしている「フリーランスが搾取されないために必要な事」に関連付けて考えてみたいと思います♪
『音TOWN』(おんたうん)は、『音楽“と”生きる街』をコンセプトに、クラシック・ジャズ・ポップス・吹奏楽などと関わりながら個性豊かに生きる「人」「お店」「団体」「会社」や、音楽家に必要不可欠な「お金・健康」の情報をお届けしています♪
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このシリーズでは、音楽を職業にしていくためにとても重要であるにもかかわらず、学校ではあまり教わらない“お金”について、改めて学んでいきましょう!お金について学ぶと「生き方」も明確になりますよ! →詳しくはコチラ
この記事を読むと役に立つ人は!?
・フリーランス・個人事業主の音楽家(演奏家)として活動している方
・仕事を頼まれると「断ったら次がないかも」と考えてしまう方
・音大生、音高生など、これから音楽を仕事にしたい方
読んだらどんな良い事が!?
・仕事を「報酬額だけ」で判断してはいけない理由が分かる
・依頼を受ける前に確認しておきたいポイントが分かる
・自分の価値を安売りせず、将来につながる仕事を選びやすくなる
きっかけは『音大生のための“働き方”のエチュード』

2020年3月、僕がNPO法人ネクストステージ・プランニングの音楽ディレクターを務めていた時に、
という本を出版させていただきました。
「(紙の)本の出版」「著者になる」という経験やチャレンジは、「経営者になる」と共に実現してみたい事の一つだったので、とても有り難かったですね。
(ちなみに父は長年出版社に勤めた元編集者/文章を書くスキルを遺伝できた事に感謝です!)
出版されたのは、たまたま新型コロナウイルスの影響が広がり始めた時期。
コンサートやライブが中止になり、レッスンができなくなり、「音楽一本で生きていく」という働き方そのものを考え直さざるを得なくなった音楽家も多かったと思います。
そんなタイミングだった事もあって、この本には予想以上の反響をいただき、今では全国の音楽大学や音楽高校、音楽科のある学校などの図書館にも置いていただいているようです。
内容は、
・働くスタイルは一つでなくていい
・もう一つの目的地を見つける
・プロとして信頼される人になる
・個人事業主の意識を持つ
・未来の自分をブランディングする
といった、演奏技術とは少し違う「職業音楽家としてどう生きるか」という話。
この本を読んでいただいた事がきっかけで、とある音楽系の大学から学生向けの講演依頼をいただきました。
初めての講演|基本的には受けるつもりだった!

「講演」という仕事もまた、現場のミュージシャンのみを生業にしていたら、なかなか巡ってこないチャンスですよね。
これまで演奏、レッスン、作編曲、執筆、経営などは仕事として経験していましたが、大勢の学生に向けて自分の経験を話す機会はなかったので、
「挑戦や実績にもなるし、新しい仕事につながるかもしれない」
と考え、よほど条件が悪くなければ受けるつもりだったんです。
そして、学校の就職課のような部署の事務スタッフさんとZoomで打ち合わせを行いました。
ところが、そこで最初の違和感が出てきます。
「何を話してほしいのか」が分からない…
僕から、
「学生さんに何を伝えたいのでしょうか?」
「今回の講演の目的は何でしょうか?」
と聞いてみても、いまひとつ具体的な答えが返ってきません。
簡単にまとめると、
「本の内容や藤井さん自身の経験について、自由に話してください」
という感じ。
でも、これって講演する側からすると結構困るんですよね。
僕は10代から音楽活動を始め、
プロの演奏家(有名アーティストとの共演や、テーマパークでのパフォーマーなど)
↓
海外留学
↓
音楽教室講師
↓
作編曲、音楽制作
↓
会社設立、店舗経営
↓
執筆、メディア運営
など、さまざまな経験をしてきました。
1時間や2時間で全てを話すなんて当然無理じゃないですか。
しかも、何の目的もなく僕の人生を順番に話したところで、
「僕はこんな事をしてきました!」
という自伝や自慢話のようになってしまいますよね。
本の内容をそのまま説明するだけなら、
「それ、本を読めばいいじゃん!」
という話にもなります。
「目的」がなければ、講演はただの“手段”になる
以前、「藤井の歩き方」でも書きましたが、僕は常々、
「目的」と「手段」を区別する事が大切
だと考えて行動しています。
『「人生の地図」を持っていますか?─音TOWN1周年に寄せて/Vol.6』
参考:「目的(意図/理由)と手段」
講演を開催する事自体は「手段」ですよね。
重要なのは、
「学生に何を持ち帰ってほしいのか?」
「どんな悩みを解決したいのか?」
という「目的」です。
例えば、
「卒業後の収入に不安を感じている学生が多い」
のであれば、フリーランスのお金や複業について話せます。
「演奏家以外の仕事を知らない」
のであれば、音楽を生かした様々な働き方について話せます。
「社会人になる事に不安がある」
のであれば、仕事の受け方やコミュニケーションについて話せます。
目的によって講演の内容は全く変わるんです。
そこで、
「事前に学生へアンケートを取り、どんな事に悩んでいるのか、何を聞きたいのか確認できませんか?」
と提案しました。
ところが、それもなぜか難しいとの回答でした(めんどくさかったんだと思います…)。
そうなると僕としては、
「学生のために何をするのか」より、「講演を開催したという事実を作る事」が目的になっていないか?
という疑問を持ってしまいます。
学校側は、まるで「音楽以外の就職面のサポートも行っている」という既成事実を作りたいだけのようで、何も「パッション」を感じなかったんですよね…
提示された「かなり低い謝礼」!?

そして、もう一つ大きかったのが「報酬」です。
具体的な金額は伏せますが、提示された謝礼は、かなり低い金額でした。
もちろん、この時点では初めての講演。
そのため僕自身、
「未経験だし、安くても経験になるならいいかな」
とは考えていました。
上記の記事でも書いたように、仕事は単純にギャラ(金額)だけで判断するものではありません。
経験、人脈、実績、宣伝効果など、将来への投資になるのであれば、通常より安い仕事をあえて受ける選択もあります。
「某大学で講演」という実績にもできない!?
そこで、
「後日、プロフィールなどに『○○大学で講演』と記載しても良いですか?」
と確認しました。
ところが、それもNG。
あくまでクローズドなイベントとして実施してほしいという条件でした。
もちろん学校側にも事情はあったと思いますし、情報をどこまで公開するかは先方の判断です。
ただ、受ける側から見ると、
・報酬は低い
・講演実績として公表もできない
・結果、その後の仕事につながらない(投資を回収できない)
となりますよね。
「動画を撮ってコンテンツとして残したい」!?

さらにお断りを決定的付けたのが、
「当日参加できない学生のために講演を録画し、動画として残したい」
という話でした。
これはかなり重要なポイントです。
例えば、その場限りの1時間の講演なら、
「講演1回分の報酬」
ですよね。
ところが動画を残せば、翌年も、その翌年も、新入生にも見せられるかもしれません。
極端に言えば、
「一度報酬を支払えば、何年間でもコンテンツを使い回せる」
という事になります。
つまり、「二次利用」ですよね。
もちろん使用期間や利用範囲など、条件を細かく決めれば話は別です。
しかし、そこまでの利用価値を求めるのであれば、その価値を含めた報酬の提示が必要なのではないでしょうか。
「学生に安売りするな」と言いながら、自分が安売りするの?

ここで僕の中では、ほぼ答えが出ました。
もし僕が講演を行えば、おそらく学生には、
「自分の価値を理解しましょう」
「何となく言い値で仕事を受けないようにしましょう」
「フリーランスとして自分で判断しましょう」
といった話をしたんじゃないかと思います。
なのに、その講演をしている本人が、
条件やかちをほとんど考えず、安い金額で仕事を受けていたら説得力がないですよね(笑)。
それでは筋が通りません。
結果、この講演依頼はお断りしました。
発注側だけが得する関係は「ウィンウィン」ではない!

今回の話を整理すると、学校側には、
・学生向けのキャリア教育ができる
・本の著者本人を講師として呼べる
・講演動画というコンテンツが残る
というメリットがあります。
一方、僕には、
・低い報酬
・実績として公表できない
・次の仕事につながる保証もない
・動画はその後も利用される可能性がある
という条件。
もちろん、ビジネスは必ずしも完全に50:50になるものではありません。
しかし、発注側だけが多くのメリットを得て、受注側にはほとんどメリットが残らない関係は、健全とは言いにくいのではないでしょうか。
上記の記事でも紹介した「三方よし」の考え方と同じです。
仕事や人間関係は、
「頼む側」と「頼まれる側」の双方が納得できる関係
である事が大切だと思うんです。
教育機関だからこそ「真っ当な仕事」を見せてほしい!

僕がこの件で最も残念だったのは、
「大学からの依頼だった」
という点。
これが一般企業からの営業案件なら、
「条件が合わなかったので断りました」
で終わる話かもしれません。
でも、大学は、これから社会へ出ていく人材を育てる教育機関ですよね。
学生に、
「社会で活躍できる人になってほしい」
「厳しい音楽業界で仕事をしてほしい」
と本気で考えているのであれば、学校自身もフリーランスや外部の専門家とフェアな関係を作る姿勢を見せてほしいと思います。
講演でどんな立派な話をするか以前に、
「実際の仕事の発注方法そのものが、学生に見せられるものであってほしい」
僕はそう感じました。
これからの音大生・音楽家は「自分の頭で考える」習慣を!

学生(音大生)の皆さんには、学校で教わった事をそのまま受け入れるだけではなく、
「なぜ?」
と考える習慣を身に付けてほしいと思っています。
・なぜこの授業を受けるのか
・なぜこの練習をするのか
・なぜこの仕事を受けるのか
・なぜこの金額なのか
・なぜこの人と仕事をするのか
学校のカリキュラムをこなしているだけでは、卒業後の仕事まで用意してもらえるわけではありません。
特にこれからは、生成AIをはじめとしたテクノロジーがさらに進歩していきます。
「言われた事を正確にやる」
だけなら、人間よりAIや機械の方が得意な分野はますます増えていくでしょう。
だからこそ、
「自分は何を考え、何を選び、どんな価値を生み出せる人なのか?」
が重要になると思います!
演奏技術だけでなく、
・判断力
・発想力
・コミュニケーション力
・ビジネス感覚
・自分だけの経験や個性
まで含めて、その人の「価値」です!
これから音楽の仕事を始める学生さんも、すでにプロとして活動し始めた若い音楽家さんも、ぜひ「自分の頭で考えて選択する」という習慣を身に付けてください。
『音TOWN』でも、学校ではなかなか教わらない「お金」「仕事」「キャリア」について、引き続き掘り下げていきたいと思います♪
藤井裕樹/音TOWNプロデューサー
【株式会社マウントフジミュージック代表取締役社長・『音ラク空間』オーナー・ストレッチ整体「リ・カラダ」トレーナー・トロンボーン奏者】 1979年12月9日大阪生まれ。19歳からジャズ・ポップス系のトロンボーン奏者としてプロ活動を開始し、東京ディズニーリゾートのパフォーマーや矢沢永吉氏をはじめとする有名アーティストとも多数共演。2004年〜2005年、ネバダ州立大学ラスベガス校に留学。帰国後、ヤマハ音楽教室の講師も務める(2008年〜2015年)。現在は「ココロとカラダの健康」をコンセプトに音楽事業・リラクゼーション事業のプロデュースを行っている。『取得資格:3級ファイナンシャル・プランニング技能士/音楽療法カウンセラー/メンタル心理インストラクター®/安眠インストラクター/体幹コーディネーター®/ゆがみ矯正インストラクター/筋トレインストラクター』








